ⅡーⅧ
「あのねえ、皆の前で襲うとか言うのはどうかと思うけど?」
夏海を制して、俺は何とか喋ることが出来た。
「じゃあ、皆の前じゃなければいいんですか?」
……え? そう言うことじゃ、無いんだよな……。
「夏海、いい加減にしなさい。そう言うところは、嫌いだよ?」
基本いつも夏海は、素直なんだけどね…。たまに揚げ足を取ったりするからさ。いや、素直ではあるんだよ? ここのところは、勘違いしないで欲しい。
「お兄ちゃん……はい、ごめんなさい。でも夏海は、お兄ちゃんが……」
ほら、素直ではあるでしょ? 注意すればちゃあんと、すぐ謝れるんだから。
まあブラコンのことは、本人がいいことだと思ってるみたいだから無理だけど。
「別に夏海が俺のことを好きなのは構わない、実際俺も夏海のことが好きだよ? でもね、あくまでも家族として……妹としてだから……。そこのところを、間違えないようにね」
恋愛対象には、なりえない存在なのだ。確かに俺も、兄妹じゃなければ夏海と恋が出来ただろう。
だって夏海は、いい子なのだから。兄である俺も、他の男に渡したくなくなるくらいいい子なんだ。でもだからこそ、俺から離れて欲しかった。
「お兄ちゃん……。兄妹だと、愛し合っちゃいけないんですか?」
愛し合うこと自体は法律でダメと言われている訳じゃない、まあ結婚とかはできないんだけど……。
「普通に考えてみなさい、夏海も分かってるでしょ? はい、この話は終わりね」
最後に俺は夏海の頭を撫でてあげ、話を切り上げる。
「そうですか……。でも夏海、お兄ちゃんが大好きですから」
夏海に似合わない悲しそうな顔をしたのだが、その後夏海らしい笑顔になってくれた。
”お兄ちゃんが大好き”か……。
大嫌いよりも大好きの方が嬉しい、それはそうなんだけど……。それは、当然だけど…。
はあ、どうして俺と夏海は兄妹なのだろう。
兄妹でさえなければ、悩むこともなかったのに。
俺達は愛し合えた。結婚も出来るし、子供だって作れたかもしれない。
でも血が繋がってるからには、それも出来ないんだ……。
「じゃあ、一旦休憩だ。昼ご飯を食べな」
どれくらいボーっとしていたのだろう。
おっさんの声と、手を叩く音が聞こえてきた。その音で、俺は我に返る。
「直康、今日の弁当は何ですか?」
唯織さんがおっさんに訊く。
「直康って、本名知ってたんだね……。まあいいや、今日の弁当をどうして俺が知っていると?」
おっさんの言葉的に、直康は本名なんだ……。それで、名字は何なのだろうか……。
まあ俺はどうせ、おっさんって言うから関係ないけどさ。でも一応、名前くらいは知っておいた方がいいんじゃないの?




