ⅤーⅠ
「なんで俺がパンツを被らなくちゃならないんだよ。思う訳ないだろ」
冷静にツッコミを入れると、何が不思議なのか、邦朗は首を傾げている。
「この前さ、夏海ちゃんに会ったんだよね。そこでお前の好みのパンツとか、お前に被らせたいパンツとかを質問されて……」
「それは本当? 本当に夏海がそんなことをしたの?」
話の途中だったようだが、俺は驚いて邦朗に問い返す。
別に相手が邦朗だったら構いやしないけれど、他の人にそんな質問をしているとしたら、俺はとんだ変態に思われるじゃないか。
なぜかその辺りを気にしないところがある夏海だから、心配になってくる。
「ああ、女の子を求めて街を散歩していたら、偶然夏海ちゃんに会って。彼女も美少女だから、と思って話し掛けたら、そんな質問をされたんだよね」
これは、友と妹のどちらにツッコミを入れたら良いのだろう。
まずなんでもないように言ったが、女の子を求めて街を散歩するってどういうことだよ。夏海と会ったのが偶然にしても、話し掛けた理由も美少女だからって。
夏海が可愛いのは認めるけれど、目の前で妹をナンパしたと宣言されても困る。
「ありがとう。パンツ、ねぇ。心当たりがあるから、家に帰ったら問い詰めてみるよ」
そう言って微笑んでみせれば、邦朗は「お、おう」と微妙に引き攣った笑顔でそう返してくれた。
「ちなみに、邦朗はそれに対して何か言ったの?」
昼休みの時間も残り僅かなので、急いで完食すると邦朗に質問を投げ掛ける。
この答えによっては夏海だけでなく、邦朗も問い詰めなければいけないと思ったのだが、どうやらその必要はなかったらしい。
彼は首を横に振ってくれた。
「言わなかった。だって冬樹がどんなパンツが好きとか、知らないんだもん。ここまで親しくしておいて、パンツの好みさえも知らないなんて、友達として失格だよな」
何を言っているんだか、この阿呆は。
夏海に余計なことを言わなかったのは良いが、この返答は褒められないな。
事情聴取は二人に行うしかないんだろう。
「邦朗の言動は、少し目に余るところがあるな。どうせ今日も暇なんだろう? 放課後、俺に家まで来ること。裁判を行うから」
「そんなに怒ることないじゃん。友達失格なのは認めるけど、今からでも遅くないだろ。一緒にパンツ、見に行こうぜ」
ふざけているのか、本気で言っているのか。邦朗の場合はいまいち分からない。
しかしこれを本気で言っているんだとしたら、この時点で有罪確定だろうな。
俺が零した溜め息は、昼休み終了のチャイムにより掻き消された。




