ⅣーⅨ
「どうですか。夏海の最高傑作ですよ」
自信満々に渡された歌詞に、夏海らしいなと思う。
中学生の女の子が書くようなものではないのだが、らしいと思えてしまうのだから不思議だ。
そしてその夏海らしさは、タイトルからも溢れてしまっている。
「パンツの歌?」
ふざけているとは思ったけれど、ふざけて良いといったのだから仕方がないだろう。夏海は間違っていないよ。
でもさ、ふざけるってそういうことなのね。
ただ一見歌詞が普通の歌に見えるところが、また夏海らしい。
タイトルを見てから読んでしまうと、そうは見えないのが残念だけどね。
「ええ、そうです。替え歌みたいに歌えないといけないから、お兄ちゃんや編曲さんに迷惑を掛けないように、文字数をしっかりと数えて頑張ったのです。作詞の夏海が頑張らないといけませんから、お兄ちゃんへの愛の力でっ!」
愛の力を強調されても、困るだけである。
だけど夏海が頑張ったということは、よく伝わった。
確かに良い曲と褒められるタイプのものではないが、夏海は注文に添って、最大限に頑張ってくれたではないか。
『夏色の君、遠い君』という曲は、かなり真面目なものである。だからこそ、そのメロディーで歌われる『パンツの歌』は中々に良いのではないだろうか。
微妙な歌詞のマッチ感もね。
叶わない恋のもどかしさと届かないパンツのもどかしさ。
これ以上は解説している俺が変態みたいなのでやめておくが、悪くないと思う。
「面白いんじゃないかな」
「ですよね! どうしたらお兄ちゃんにエッチなことを言わせられるか、一生懸命に考えたんです。いかにお兄ちゃんが変態に見えるか、そして夏海からのお兄ちゃんへ向けた愛と、お兄ちゃんから夏海に向けられた愛、それが際立つように書かせて頂きました。自信があります」
興奮気味のその言葉には、多少の軽蔑くらい許されるだろう。
しかしまあ、夏海が頑張ってくれたことは本当なんだから別に良いかな。これくらいは。
あくまでもこれくらいは、だけどさ。更に調子に乗り始めたら、さすがに止めるからね。
「いかに変態に見えるかって、他はともかくそれは嫌だな」
雰囲気を察して貰おうと苦笑いで告げるが、完全に逆効果だったらしい。
「なぜですかっ! 健全で清らかで、澄み渡る水よりもずっとお兄ちゃんは澄んで見えます。だからこそ、そのイメージを壊してやりたいのです」
彼女が抱いている俺へのイメージも謎だが、それを壊したい理由も謎である。
結局、言わせたいだけなのかな、と納得する。
面白いとは思うし、口にすることに抵抗を感じるような語でもないし。




