ⅣーⅦ
「俺も、横島さんはそんなことしないと思う。正直ちょっと怖いようなところはあるけど、それでも本当に俺のこと好きでいてくれているんだなって、思うから」
これ以上、彼女を疑うようなことはしたくないって気持ちはあった。
でも、だって恥ずかしいじゃん!
園田冬樹な訳がないと言って、皆が否定してくれればそれで良いんだ。まあ、園田冬樹には違いないんだけどね。
ただそれが本当に俺であるからには、否定して貰えるとも思えない。
だって嘘じゃないんだもん。本当に俺なんだもん。
どうして気安くあんなことを言ってしまったのか、やっぱり断っておくべきだったかな。
「それだったら、夏海は良いと思いますけどね。これでお兄ちゃんの可愛さが広がれば、更にお兄ちゃんのファンが増えるんじゃないですか? そしたら、そうしたら、新しくロリキャラの仕事だって来るかもしれませんし。仕事の幅が広がるって思えば、……良いじゃないですか」
無理に夏海は、俺のことを励まそうとしてくれていた。
演技派声優って言われているくせに、なんでこういうところではこんなにも演技が下手なんだよ。
でも夏海の言葉には納得だった。
「そう、だね……。仕事の幅が広がったんだよね」
望まぬこととはいえ、宣伝をしてくれたんだ。
今ここで犯人探しをしても仕方がないし、何にもならないだろう。
これからもこんなことがあるようだったら、確かに注意しなければならないと思う。
今回だけだし、横島さんは大切な友達でありファンだから、疑いたくない。妖精の森の王子様は、疑うような真似はしないから。
絶対に、何があっても信じていてくれる無邪気な王子様だから。
声優としての園田冬樹は、そうあらなければならない。
「アリスちゃんが初めて家にきたときのこと、覚えていますか? 夏海がどうしても恥ずかしくて、楓の役をやりたくないって言って、そこでアリスちゃんが切り札としてお兄ちゃんを出してきたんです」
そういえば、始まりはそれだったな。
俺が懐かしんでいると、夏海は微笑んで更に続けてくれた。
「恥ずかしかったけど、夏海は一生懸命にあの役をやりました。今ならばきっと、恥じらうこともなく出来ますよ。……だから最初は迷っても、お仕事を考えたら、やってみるのも良いと思います」
今度は無理な励ましとは違っているようで、俺には夏海が眩しく見えた。
輝かしくて、とても遠い存在のようにすら思えた。
「まだ夏海の年齢的に、もっとえっちぃお仕事をして、お兄ちゃんを興奮させられないのが残念ですが」




