ⅣーⅥ
「お兄ちゃん、どうかしました?」
無邪気な表情で、夏海は首を傾げている。
どうやら彼女は何も知らないようであった。それも当然だろう。
しかし横島さんは、どうしてこんなことをしたんだろうか。
「これ、お兄ちゃんですよね? 違うんですか?」
何も答えない俺をどう思ったか、夏海は何度も問い掛けてきた。
「間違いなく、俺だと思う……」
出来るだけ笑顔を作り、小さく俺はそう返す。
これ以上、夏海に心配そうな表情はさせたくなかった。だから無理してそう返すけれど、それは反対に彼女を心配させていた。
それはそうだろう。
もしこれを俺がネットに上げたのならば、俺は聞きたいなどと言わないだろう。
仮に聞かせて貰ったとしても、否定するか恥じらうかに決まっている。
俺ならそうすると思うし、俺のことを知っている夏海だから、夏海だって違和感を感じているんだろう。
「恥ずかしいから、一旦止めて貰えるかな? でもどうして、これがネットに流れているのかが分からないんだけど」
勝手に無限ループしちゃう仕組みらしく、聞き続けるのは辛いので夏海に止めて貰う。
俺の真剣さを感じてくれたのか、素直に大人しく夏海は従ってくれた。
茶化してきたりからかったりしてこなくて良かったと思う。
「これをお兄ちゃんが言ったことは、間違いないんですね?」
取り調べのような言い方ではあるが、夏海は俺に合わせてか笑顔を消し、優しくも厳しく問い掛けてきてくれた。
「あっはい、間違いありません」
なぜか敬語になりながらも、俺は今日あったことを夏海に話した。
ただ、人に話せば楽になるって本当なんだね? 一人で考えているよりも、夏海に言ったら何かが分かりそうな気がした。
こんなに頼りになる妹だったとは、知らなかった。
「それだと奏ちゃんが許可なくお兄ちゃんの可愛すぎる声をネットに流したと、そういうことになりますね。驚くくらいお兄ちゃんや夏海、いおのこともですね。その他にも沢山の声優さんを愛しているみたいですが、そんなことするような人じゃないと思うんです。奏ちゃんはとても良い子ですから」
しばらく下を向いて考え込んでいる様子だったが、顔を上げて俺と目を合わせると、小さな声だが自信を持って夏海はそう言った。
横島さんはそんなことしないって、俺だってそう思うさ。
だけどそれだったら、他に何があるというんだろう。
仕事だったらやるしかないけれど、ここまで恥ずかしいのは出来る限り遠慮したいところである。
ショタならともかく、ロリはないでしょ……。




