ⅣーⅤ
夏海の言っていることが、全く理解出来なかった。
ロリボイスなんてあれ以外でやった覚えがない。そんな恥ずかしいこと、中々やるもんでもないし、やったら忘れはしないだろう。
でもそれだったら、どうしてネットでそんなものが見つかるのだろうか。
「ネットで? 夏海、ちょっと詳しく教えて貰えないかな」
俺の声真似をしている人がいる、とかそういうことだろうか。
それだとしたら、素直に嬉しくも思う。
ロリボイスを俺の名前で披露されるのは、迷惑と言えば迷惑だ。しかし、大事なファンなのだと考えれば喜べる。
ただそこで疑問なのは、夏海が俺の声を間違えたりするか、ということである。
いくら似せていたって、夏海を騙すことが出来るのか。
俺以外に対してだって、聞き分ける夏海の耳は、確かなものだもんね。
真似に騙されるとは、どうしても思えないんだよなやっぱり。
「お兄ちゃん、どうしたんですか? まあ、そう言うなら、別に夏海はいいんですけど」
彼女に断る理由もなく、ネットで発見された俺のロリボイスを、夏海は見せてくれるようだ。
横島さんに勧められて、夏海がそれを聞いていたのは、スマホでだった。俺もそれでいいのだが、わざわざ夏海はパソコンを自室から持ってきてくれた。
より高音質を求める為の行動なのだろう。
俺としては、それが身に覚えがあることなのか分かれば、それだけで十分だ。
だから、最低限に聞き取ることさえ出来れば、別にパソコンを持ってきて立ち上げて。そんな面倒なことをしなくて良かったのに。
そうは思うけれど、夏海の好意をありがたく受け取っておくことにする。
「あっ見つけました、これです。激カワ、園田冬樹の全力ロリボイスです」
突然なんてことを言い出すんだ。とは思ったけれど、それは夏海の言葉という訳じゃなくて、彼女はただ書いてあった文を読んだだけだった。
普通に夏海に言われるよりも、よっぽど恥ずかしいよね。
「どんな感じなのか、夏海は聞いたみたの?」
「はい。奏ちゃんがいる間、リピートで何度も聴かせて頂きました。とても可愛かったですし、間違いなくお兄ちゃんだと思います」
これだけ自信を持って夏海が言うんだ。それは、間違いなく俺なんだろうな。
覚悟を決めて、俺は夏海に再生して貰った。
『にいに、だいちゅき♡』
耳を疑った。そう、それは間違いなく俺である。昼休みにやらされたあれで、間違いないのである。
しかしこれがどうして、ネットに晒されてしまっているのだろう。
横島さんしか聞いていなかった筈なのだから、そうしたら犯人は……。




