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「それよりもお兄ちゃん、どういうことですか? 萌えロリボイス、披露したそうじゃありませんか」
全く着いて行けていない俺を余所に、二人でまた勝手に盛り上がり始めていた。
どうして夏海にそれがバレているのか。それは当然、横島さんが話したからだろう。
だったら、夏海に関しては特に疑問はない。
それよりも、横島さんである。彼女はどうなっているのだ。
荷物を片付けて、自分の部屋で少し落ち着くと、覚悟を決めて二人がいるリビングへと向かった。
「あっでも、冬樹さんいらっしゃったので、そろそろ帰りますね」
覚悟して行ったというのに、横島さんはそんなことを言って、止める間もなく去っていってしまった。
どうして? 彼女は何をしに家に来ていたのだろうか。
夏海にその情報を与える為だけに、わざわざ家に来たというのだろうか。
それも、物凄い速さである。
「お兄ちゃん、やっぱりロリ役出来たんですね。恥ずかしがり屋さんなんですから」
恥ずかしいからやりたくないのは確かだが、恥ずかしがり屋という訳ではないだろう。
そもそも、ロリ役など出来ない。出来たんですね、じゃないよ。
ああ、こんなことになるんなら、やっぱりやらなきゃ良かったかな。
「しかし奏ちゃんって本当に優しいですよね。その素晴らしい情報を夏海に下さると同時に、その後の時間を夏海とお兄ちゃんの二人きりにしてくれるんですから」
俺にとっては、どちらも悪魔のような行為だけれどね。
俺と夏海と横島さん。その三人でときを過ごすのも、俺としては気不味くて仕方がなくなるし、それに比べたら二人きりの方がいいのかもしれない。
でも少なくとも、その素晴らしい情報というのは、夏海に与えないで欲しかったかな。
「あれは、横島さんがどうしてもって五月蝿いし、彼女は大切なファンだからと思って……。だからさ、ロリのことは忘れてくれない? 本気で恥ずかしかったんだ」
穏便に済ませる為には、これもやむを得ない。そう思って、俺は夏海にそうお願いした。
すると夏海は、とても不思議そうな表情をする。
まるで、俺の言っていることが分からないとでも言うような表情だ。
「横島さんって、奏ちゃんがってことですか? お兄ちゃん、何を言っているのですか」
きょとんとしている夏海。え、昼休みの辱めロリボイスのことじゃないの?
それだったら、横島さんは夏海に何を吹き込んだのだろうか。
「ネットで見つけたんですよ。お兄ちゃんの萌えロリボイス。そしてそれを、奏ちゃんは逸早く夏海に伝える為に、家までお越し下さったのです」




