ⅣーⅢ
しかしこれには、どう返答すれば良いのだろう。
「さあね」
返答に困ったので、はぐらかすように微笑んで、いつも通り馬鹿駄弁りを始める。
掘り下げて欲しくない話題だと、ちゃんと分かってくれたのだろう。しつこく言って来ないのだから、そういうところは、邦郎のいいところだと思う。
余計なことは言ってしまうから、女子にはモテない様子だけどね。
「お兄ちゃん! 聞きましたよ! どういうことなんですかっ!」
その日、帰宅すると「ただいま」を言う前に夏海の大声が聞こえてきた。
何を聞いたんだろうか。どういうことなんですかって、それはこちらの台詞である。
主語のない質問に、俺はどのように答えればいいのだろうか。
とりあえず、落ち着いて貰ってからゆっくりと質問には答えてあげるとしよう。
「冬樹さん、お邪魔しております」
なぜ夏海がこんなにもハイテンションなのかと不思議に思っていたのだが、リビングへ行くとその理由が発覚した。
ちゃっかり横島さんが座っていたのである。
どうしてここにいるのかよりも、どうやったらここに来れるのか。その疑問の方が俺の中では大きかった。
だって俺、寄り道しないで帰ってきているんだからね?
彼女が私服であることを考えると、一旦帰宅してから着替えをして、俺の家へ来たということになる。
部活はどうなのだろう。俺は部活に入っていないから、そのまま帰って来ている。しかし横島さんはそうじゃない筈。
最初に家へ連れて来たとき、偶然部活が休みだとか話していたのを覚えている。
「なんて顔をしているんですか。お友達でいてファンである横島奏さんに対して、そのような表情を向けるのはどうかと思います。百歩譲って夏海を蔑むのは一向に構いません。しかし、奏ちゃんはお兄ちゃんの純粋なファンなのですよ? 大切にしないといけませんからね、お兄ちゃん」
横島さんを見て戸惑っていると、夏海にそう注意されてしまった。
そんなことを言われても、俺だってファンは大切にしなければいけないとは思っているよ。横島さんのことも、大切なファンとして扱っている。
今までは会話もしたことがなかったのだから、友達だったかどうかは怪しいけどね。
ただ大切にしているのは本当だから、注意される謂れはないと思う。いくら夏海先輩だとしてもね。
それと蔑んでもいない。戸惑いはしたし怖いとは感じたかもしれないけれど、蔑んではいない。
夏海の言葉にツッコミどころが多いのはいつものことだが、この言葉はやはり納得出来なかった。




