ⅢーⅦ
「あまり、恥ずかしくないのがいいかな」
小さく呟いた俺の希望に、夏海は激怒した。
「なぜ、どうして恥ずかしがるのですかっ! 夏海とて愛の言葉を囁くことをいちいち恥じらっていた過去もありますが、それは間違った感じ方なのですっ! お兄ちゃんがスタジオにやってきてくれたあの日、全てが変わりました。お兄ちゃんに隠して別の人に愛を囁く罪悪感、だったのですね。でも夏海が皆の夏海であるように、お兄ちゃんも皆のお兄ちゃんなのです。だから夏海には遠慮なく、罪悪感を感じる必要などないのです」
この子は長々と何を語っているのだろうか。
ツッコみたいところはいくつかあったけれど、最もツッコむべきところはここだ。
「皆のお兄ちゃんではないかな」
俺に弟は存在しないし、妹だって夏海以外にはいない。
夏海だけのお兄ちゃんという言い方をするのは癪だけれど、俺のことをお兄ちゃんとするのは夏海だけだ。
「それは、愛の言葉ということでいいのですか? やはり夏海のことを想ったら、他の人に愛を語ることなど出来ないと。それは浮気行為に近しいから、そのようなことは出来ないと仰るのですね」
「違う」
楽しそうに語っていたから一応は最後まで聞いてあげたけれど、終わったみたいなので一言否定しておいた。
それにも大きく反応して、項垂れる夏海の姿は可愛らしいとも思う。
素直な子なんだよね。本当に素直過ぎるほどに、素直な子なんだよね。
そういうところは可愛いんだけどな……。
「だってそれは人を喜ばせる為の行動なんです。名誉であり栄誉であり、恥などでは決してありません。だからお兄ちゃん、えっちぃ写真集とか撮っちゃいましょうよ」
そう! こんなところが残念なんだ。
途中まではなんだか良さげのことを言っていたから、少しだけ期待をしてしまったじゃないか。
「それで夏海、特典はどういうのが良いと思うかな。というより、付けないといけないのかな」
このままだとまた自信喪失して、CDを発売することさえ撤回したくなってしまいそうだった。
沢山の人に支えて貰っているしもう決まったことだし、実際に撤回することはないけれど……さ。
「そうですね。特典などなくてもお兄ちゃんの歌声を聴く為ならば、多くの人がCDを購入なさると思います。よりお兄ちゃんの美声を楽しむ為に、限定のシリアルコードでも封入なさっては? ライブやイベントの参加権というのもありますけれど、お兄ちゃんはマイク前で台本を読む方が、……その、向いてます」




