ⅢーⅥ
「ああ、そういえば曲を貰ったよ。特典はまだ決まっていないんだよね。夏海はどうしたい?」
俺よりも夏海の方がいろいろ知っている。経験とか、そういうのもあるもんね。
だからそう問い掛けると、夏海は驚いてしまうほどの元気さで飛び上がった。
「夏海が考えてもいいんですかっ!? お兄ちゃんのCDにどんな特典を付けるのか、本当に夏海が考えてもいいんですかっ! とても嬉しいです。夏海に任せちゃって下さい」
飛び上がってグルグル数周回ると、楽しそうに本当に嬉しそうに夏海はそう言ってきた。
嫌な予感がする。というよりも、嫌な予感しかしないのだけれどどうしたらいいのだろうか。
これだけ楽しそうに夏海がしているときと言うのは、確実に暴走するときだ。間違いないと思う。
けれどこんなにはしゃいでいるところを、止めるというのもやはり気が引ける。夏海に意見を求めてしまったのは俺の方なんだしさ。
最後まで付き合うくらいは良いかな。
「考えてくれるの? 場合にもよるけど、参考にはさせて貰おうかな」
夏海が何を言い出すか分からないから、意見を聞く前に採用すると言い切ることは出来ない。
でもハイテンションだってだけで、夏海も真面目な意見を出してくれる。ここはちゃんと立派な意見を返してくれる。
そう信じている。
「ヌードなんていかがでしょう」
「却下!」
信じていた、んだけどね。
どうやら信じていた俺の方が馬鹿だったらしい。
とりあえず考えるより先に却下し、久しぶりにハエ叩きの出番となった。
「痛いです。まだそれ持っていらしたんですね。でも夏海はお兄ちゃんの為を想って意見を出しているんですから、こんな扱いはあんまりなのではないでしょうか」
座り込んで項垂れると、不満げに夏海は訴え掛けてきた。
しかしなぜ夏海の方が不満を語るのか分からない。俺の方が不満が沢山だと思うね。
「俺の為を想うんだったら、そんな意見は止めようね」
「そうですね。お兄ちゃんのヌードは夏海だけのものですから、特典として皆に魅せてしまうのはやはり夏海も嫌です。それに一億円の写真集でも売れるでしょうし、特典では少し勿体ないですかね」
意外にも簡単に同意の言葉を返してくれたと思ったら、またおかしなことを言い出した。
一億円で売れるってどういうことだよ。あまり高く売られた方が、撮られる側としては恥ずかしくて仕方ないだろうよ。
その前に、撮られる側って俺は何を考えているんだ。
俺はただの男子高校生。それに職業としても、声優に過ぎないのだ。
声だって十分恥ずかしいというのに、写真を付けるだなんてそんなの恥ずかしくて出来たものじゃない。




