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でも夏海がいてくれるって、家に先輩がいてくれるって、こんなにもいいものなんだね。
俺が質問すれば、大体のことは夏海が優しく丁寧に説明をしてくれる。
何も分からないで現場へ行って、何もかもを質問してばっかりで、そんなんじゃ迷惑を掛けてしまうだろうからね。
とは言え、普通は予習をして行こうにもして行けないものだ。
そこで家に夏海という専属の講師がいる俺は、その時点で完全に勝ち組という訳だ。
なんだか夏海のおかげで、レコーディングスタジオへ行っても、多少は自信を保っていることが出来た。
基本的にいつもは、俺の仕事のときにも夏海は着いて来てくれる。
夏海のおまけとして俺が出る訳だから、俺が仕事の際には夏海もそこで仕事なことが多い、ってのもあるんだろうけどね。
少なくとも夏海が暇であれば、いつも夏海はオフだとしても俺に着いて来てくれる。
それでも今日は別の仕事があるみたいなので、俺は一人でスタジオに来ているのだ。
アリスちゃんも勿論夏海の方へ行っているから。そう考えたら、俺のマネージャーって誰なんだろう、って思うんだけどね。
ただ一つ不思議なのは、なぜだかおっさんは着いて来ている。
「なんか、変な感じだな。冬樹さんと一緒で、夏海さんと一緒じゃないって、そんなことは今まで一度もなかったものね」
おっさんの言う通り、かなり変な感じだ。
アニメだったら共演者の方とかもいるけれど、今回は俺の歌である為、同業者の方とかもいない。
誰も忙しそうにしていたり、何か作業をしていたり。とても、話し掛けたりしていいような雰囲気ではない。
仕方がないから俺は、変な感じの中おっさんとの会話を楽しもうと努力しているのだった。
「本当に歌、経験とかないんですよね? これだったら、早速撮ってみて大丈夫だと思います」
少し練習とかしたんだけど、戸惑い気味にそう言われてしまったので、まさかのその日のうちに収録をしてしまうことになった。
一応その為に喉のケアとかもしていたし、それにしても今日は調子がいいと思っていた。
だから無駄に自分で「ラッキー」とかは思っていたけれど、そこまで褒められるとは思っていなかった。
「兄妹なんだね。夏海さんも本当に歌が上手で、でもなんだか可愛らしい歌い方をするんだ。君も知っているだろう? お兄さんもそうとは思わなかった」
からかうようにおっさんは言ってくるが、夏海のおかげで上達したスルー技術を駆使して、そのまま置き去りにした。
切なげな顔をされても、おっさんなんだもんどうしようもない。




