ⅢーⅠ
「あれ? お兄ちゃん、泣いてるんですか? 泣いてるんですか?」
喜びで涙を滲ませる俺を見て、夏海はからかうようにそんなことを言って来た。
その姿は本当に可愛らしくて、そう言っている夏海だって目尻に涙のようなものを光らせているから、それが可笑しくって。
さすが夏海だよね。こんなに、喜んでくれるんだからさ。
「夏海だって泣いてるじゃん。って、俺は別に泣いてないから」
強がるように笑顔を浮かべると、同じように夏海も可愛らしく笑顔を浮かべてくれる。
もう既に歌を頂けるのは決まっていたのだから、そりゃまあ曲だって完成するだろう。
作詞が済んでいるんだから、早かれ遅かれ作曲だってして貰えるに決まっている。
それなのに、ここまで喜ぶだなんてね? 子供かもしれないけど、夏海の兄なんだから素直なんだと思って欲しい。
「お兄ちゃんったら、小学生じゃないんですから。ぴょんぴょん跳び回って、元気な方ですね」
二人でそれこそ小学生のように跳び回ると、落ち着いてから夏海は冷たい麦茶を淹れてくれる。
冷静な考えを取り戻す為にコップを傾けると、カラカラとコップが涼しげな音を響かせる。それだけで冷静になるには十分な涼しさだったのだが、軽く麦茶に舌を付ける。
と、そのあまりの冷たさに驚いてしまう。
「お兄ちゃんったら、やはり熱くなっちゃっていますね。豪快に飲み干して、いつものツーンとするほど冷たいお兄ちゃんに戻って下さい」
俺は猫舌なだけじゃない。熱いのも駄目ならば、冷たいのも駄目なのだ。
そして夏海はそれが分かっているから、熱過ぎるのも冷た過ぎるのも出さない。
そう言えば、いつも氷なんか入れないじゃないか。
「褒めてるのか? それ」
冷たい人間と言われているだけな気がするけどな。
んなことを思いながらも、夏海の言う通りまだ冷静になれていないのは確かだから、冷たさを気にせず本当に飲み干してみせた。
やっぱり冷たいけど、頭も冷えた。今度こそ冷静になれた。
「はい。勿論、褒めてますよ。夏海がお兄ちゃんに対して褒め称える以外の言葉を投げ掛けたことがありましたか? 全く失礼しちゃいます」
それはそれでどうかと思うけどね。
投げ掛ける言葉が褒め称えるだけ、だなんて。そこまで行くと、嬉しいのかどうかすら分からなくなってくるし。
褒め称える以外の言葉だって、当然何度も言われたことあるし。
「そんなことより、いつ歌えるの? 恥ずかしいのはあるけど、折角だから早く聞いて貰いたいし」




