ⅡーⅧ
「お兄ちゃん。夏海を愛する気持ちを素直に認めることが出来たお兄ちゃんなら、今のお兄ちゃんならば、歌詞の意味だって分かる筈です。さあ、お兄ちゃん」
どうやって話を逸らそうかと頭を悩ませていると、ありがたいことに夏海の方から話を変えてくれた。
空気を読んだと言う訳ではなく、夏海の思考回路が流れて行き、最終的にそこへ辿り着いたと言うだけのことだろう。
何にしても、俺としては良かったと思う。
どんなに一生懸命俺が努力したとしても、正しい方向へと導く手段は見つからなかったかもしれない。だから、本当にありがたい。
元々夏海が暴れ出しているんだから、ありがたいと言うのも可笑しいような気もするけどね。
「そんなこと言われても、天邪鬼としか」
作詞をした夏海に失礼なのは分かっているさ。
他の人が聞けばその意味も分かるんだろうが、俺には分からないんだから仕方ないよ。
歌詞を読んだ感想。それは一言、天邪鬼。
「んまあ、悪くはありませんね。はい。天邪鬼ですよ、天邪鬼。それでいいのです」
ムキーっと怒りだすかと思ったが、夏海は思ったよりも神妙な表情をして頷いてくれた。間違っていなかったらしい。
しかし天邪鬼、それが何を表しているのかが分からない。
卑猥な表現を交えながらのラブソング。そんな感じの説明を、夏海にちょっと聞いた。
君を追い掛けていて。恋、と言うところも分からないでもない。だけど、よく分からないんだよなぁ……。
それは恋愛経験不足のせいなのだろうか。
「なぜ夏海が季節を選んだのかは分かるでしょう?」
優しく問い掛けてくる夏海は、きっと説明をしてくれるつもりなんだろう。歌詞の意味を必死に勉強して、素晴らしい歌を届けられるようにしないと。
夏海も意識を切り替えてくれているので、俺も真面目な表情を作る。
やるときはやります。それこそが、園田家の仕来りなのです。
「俺と夏海のことを書いた方がイメージし易かったから、だろう? 俺が夏海に恋い焦がれることを望んだ妄想ソングか」
はっきりと言い過ぎて、少し後悔した。
先程夏海が一番とか言ってしまったあとなので、妄想は言うべきじゃなかったかな。話題を戻されては困る。
ただ真面目モードの夏海は、そこも気にするつもりはないらしかった。
俺の言葉が間違いじゃないことを、彼女も理解しているのかもしれない。
いい加減中学生だし、本当の恋とかもして来るだろうから。俺への想いを正し始めてくれたのだろう、そう信じている。
「夏と冬は反対の季節です。偶々夏海とお兄ちゃんがその季節に産まれてしまっただけではあるのですが、これは禁断の恋を表しているように思えて仕方がないのです。夏海にはそう思えてしまうのです」




