ⅡーⅤ
「横島さん、落ち着こうか」
あまりの乱しようだったので、ずっと眺めていた俺も邦朗を助けることにする。
このままでは、横島さんのイメージが崩れ去って行ってしまう。学校ではそこまで暴れさせる訳にはいかない。
しかし、ファンとは凄いものだ。
興奮状態にあった横島さんなのだが、俺が声を発した瞬間に静かになってしまう。そして声を出そうとした邦朗のことを、きつく睨み付けたのである。
そこまでして俺の声を聞いてくれるのは嬉しい、嬉しいんだけどさ。
「まず、汚らわしくはない。邦朗は変態だけど、俺の友達なんだ。横島さんも、仲良くしてやってはくれないか」
自分でも衝撃的である。
憐れに思えて来たからか、俺は邦朗を庇うようなことを口にした。あの変態マスターで常に可哀想な、邦朗をである。
仲良くしてくれる数少ない人だし、友達だとは思っている。
それでもそれを改めて口にすることは滅多になかった。横島さんも邦朗も驚いたような表情をしている。
「冬樹様、ああ、さすがでございます。全ての生物を大切にし、友と慈しむのですね」
俺を本当に神と思っているのではないか、そう思えて来てしまいそうである。横島さんは崇めるような視線を送ってきて、俺の前で跪いた。
ここまでされてしまうと、やはり周りからの目が痛い。
なぜだか分からないけれど、横島さんは俺の呼び方が三パターンもある。
ゆっきー、冬樹様、冬樹さんだ。
これは俺の推測なのだが、ゆっきーと言うのはファンとしての呼び名。冬樹様と言うのは、俺を神と思っているとき又は、夏海教の信者として呼ぶとき。そして冬樹さんと言うのは、学校で呼ぶ筈の名。
そうなんじゃないかと思う。
表面を一応は気にしているみたいで、冷静なときには冬樹さんと呼ぼうとしている。そんな努力も見られはする。
ハイテンションになってしまうと、素が出るようで崇め出すけどね。
「冬樹、ありがとう。お前は俺の心の友だ」
気持ちが悪いのだが、邦朗はそんなことを言って俺の手を握る。気持ち悪い。
ただ俺も友達だと思っているから、心の友と言われて悪い気はしない。気持ちは悪いけど、嫌いではないからさ。
「気安く冬樹さんに触らないで下さい。冬樹さんが汚らわしくないと仰るのですが、汚らわしく思えて仕方がありません。冬樹さんの聖なる力により多少は浄化されているかもしれませんが、ベタベタ触るのはお止め頂きたく思います」
なんということでしょう。
俺の言うことを横島さんは信じてくれた。彼女にとって俺の言うことは絶対らしく、どんなことでも俺がそう言えば納得してくれたんだ。
そんな彼女すら、邦朗が汚らわしくない、と言う話は信じられなかったのか。




