Ⅸ
しかし、姫と言うのは誰を指しているのだろうか。
結婚なんてそんな話題上がったことあるのだろうか。誰と恋人とか、そんなの興味ないから見ないんだよね。
ただ、そんなのに俺の名が上がるとも思えないんだよな。
声優ファンの間で何かが噂されていたとか? それでも、全く身に覚えがないからな。
「一人の姫を想い、結婚まで考えたことなどまだ未熟な私にはありません。だって私にとっては、城内の民み~んながお姫様みたいなものだから」
自分でも吐きそうになるような言葉だった。これを台本ではなく自分で言うのだから、俺はナルシストだろう。
完璧に言い切ることも出来ず、最終的には笑いを堪える状態。
それなのに、皆は歓声をくれた。案外嬉しいものだな。
「皆がお姫様ですか。夏海ちゃんが言ってた通り、口が上手い王子様ですこと」
俺の台詞を笑い、大勇さんは言う。夏海め、余計なことを言いやがってさらに恥ずかしいじゃないか。
皆が笑ってくれているから、それでいいとは思うんだけどさ。
お笑いイベントではないんだ? 一応声優園田冬樹のイベントだから、笑われているままなのもそれはそれで行けない気がする。
痛々しい台詞を吐いたときだって、可愛いと言ってくれたんだ。
大勇さんにからかわれても構わない。きっとナルシスト的なことをすれば、ぶりっ子的なことをすれば可愛いって言ってくれる。
そうは思うけれど、俺はそこまで強くなかった。
イベントは順調に進められていく。
皆は笑うところで笑ってくれるし、俺が少し頑張れば褒めてくれる。ノリも良くて、結構仲良くいろいろやってくれる。
お客様の優しさに支えられながら、イベントは進められていく。
「姫君が到着なさったご様子ですよ」
普通にケーキを食べていると、大勇さんがそう言った。
ティーパーティーと言う設定なので、紅茶は用意して貰っていた。クイズに答えたりゲームをしたりして、ご褒美として手にしたのがケーキである。
普段は中々食べられない高級品なので、失礼は承知で会話中もちょくちょく頬張っていた。
最初、姫君と言うのが誰を指しているのか分からなかった。
しかし夏海登場のタイミングなので、夏海のことを姫と言っただけだと思い納得。案の定、奥から走って登場したのは夏海だった。
彼女の登場に、一気に会場は沸き上がる。
「世間知らずのお兄様が、何か迷惑を掛けていないか心配できてしまいましたわ。お兄様、どうでしたこと? 私に教えて下さいな」
お淑やかに微笑んでしっかり者の妹をちゃんと演じる夏海。
まあ、彼女は元々しっかりはしているからね。演じていると言うのは間違っているかもしれない。




