Ⅵ
「誰もそこまでのクオリティ期待していませんし。失敗しても、可愛いで済まされる程度ですよ。ただ、出来る限り失敗はなくさないといけませんけど」
厳しいながらもこういってくれているのは、プレッシャーを与え無い為であろう。そんな優しい妹を持ち、俺は恵まれているのだろう。
そして俺は、これ以上妹の恥になる兄になりたくない。そう思い練習に励んだのであった。
「さすがはなーちゃんのお兄さんです。そこそこ素晴らしいと思います」
一回だけ、唯織さんが見学に来てくれたことがある。
夏海とは違い、本当に厳しかった。褒めるばかりでなく、細かいところまで指摘してくれた。
ただ基本的には夏海のことをからかっていたり、夏海を愛でていたり。俺の練習ではなく、それに付き合う夏海を見にきた感じ。
まあ、そりゃそうだけどね。
彼女が俺を見に来る筈がない。彼女が夏海以外に興味を示す筈がない、からね。分かっているけど、ちょっとだけ悲しい気がする。
別に、俺には夏海がいるからいいし。
「お兄ちゃん、カッコいいですよ! 最初、夏海は観客席にいたいと思います。出番までは普通にお兄ちゃんを応援していたいと思うので」
隣に夏海が座っていたりしたら、俺のファンらしき人も大喜びだね。きっとそれは夏海のファンだから、俺のことなんて見ていられないだろうね。
多分ステージ上の俺ではなく、隣の夏海に目は釘付けって感じだろう。
「くれぐれも気付かれないようにな? 誰も俺のこと見てくれなくなっちゃうと思うから」
なんだか見て欲しいみたいだな。それならいっそ、誰も俺を見ないよう夏海をメインにするってのも。
ダメだな。折角俺の為に頑張ってくれているんだから、そんなことを考えていちゃいけない。
「そんなことありません。お兄ちゃんのカッコよさや可愛さに魅了された女性が集まることでしょう。それならば、夏海のことなど気が付きませんよ」
なるほど、そう考えれば良いのか。
女性客は俺目当て、男性客は夏海目当て。例外はあるだろうけど、大体そんな感じなのかな。
基本的に女性は少しあざといような美少女が好きじゃないのだろう。そして男性は俺のように美少女の妹を持つものが好きじゃないのだろう。
だからきっと、大体は合っていると思う。
「気が付いたとしても、夏海のファンとは違います。あくまでもお兄ちゃんのファンが集まるのですから」
そんな夏海の言葉。優しい言葉、悲しい言葉。素直に信じられない、俺が悲しくて。




