Ⅴ
「普通に練習しましょう。台本は頂いているでしょう」
やはりさすがの夏海も危ない人って訳ではないらしい。
ふざけるのは止めて、真面目に指導をしてくれる気になってくれた。
厳しい表情で夏海は台本を開く。夏海の行動をよく見て、わざわざ少し真似ながら台本を開く。
こんな小さな努力が大きな結果となる、なんてね。今のはちょっとふざけてみただけだけど、真似してみるのは良いって聞いたことある。
イベントが決まり、ショコラティエや夏海が出ているイベントを見て学ばせて貰った。勉強しておこう、そう思って様々なイベントを見たりもした。
それで感じるのは、先輩って偉大だなってことくらいだったけどね。
共演経験のある人も、中には勿論いた。ただ面白いトークでお客様を楽しませ、完璧なパフォーマンスでお客様を楽しませ。オーラが俺と違っていて、カッコよくて。
本当に、先輩って偉大だよね。
「さすがはお兄ちゃん、完璧です」
殺す気で特訓してくれると言っていた夏海だが、やはり甘かった。俺が何をしても、簡単に褒めてくれる。
それは夏海らしい。夏海らしくて、あまりにも眩しかった。
先輩って、偉大だな。
「本当に完璧ではあるんですよ。ただ、本番でそれが出来るかが問題ですよね」
夏海の言う通りだ。完璧かどうかはともかく、練習の時点ではましな筈。
いくら練習を積んでも、それを本番で出来ない可能性がある。あると言うよりも、かなり高いと思われる。
どうすれば本番でも出来るのであろうか。
考えても明確なものはないし、それには練習を積むことがやっぱり一番。考えるな感じるんだ、ってくらい練習をすればいいのさ。
「夏海だっていつも不安です。しかし、やってみると案外出来るものですよ? お兄ちゃんはトークとパフォーマンスについて以前仰っていましたよね」
先輩らしいと感じる、大人な微笑みで夏海はそう言う。
案外出来るものって、そんなこと言われてもな……。
「トーク、それはその場のテンションですよ。必ずイベントではテンションマックスになる筈ですから、そのテンションに身を任せてしまって大丈夫です。パフォーマンスなんて言っても、お兄ちゃんは曲もありませんし。台本を覚えるくらい、そしてそれをテンションに任せて語るくらい余裕でしょう」
今の夏海の説明だと、全てテンションでいいとなる。俺の解釈があってればの話だけどね。
覚える歌詞もないのに何を言っている。そう、バカにしているようにも取れたけどさ。




