ⅤーⅨ
意地でも俺が声優であることを否定したいようだな。
てか、なんで同姓同名だと不満なんだよ。学校での俺は不満みたいな言い方じゃないか。褒めているんだか、貶しているんだか。
聞けば聞くほど虜にしていく不思議な魅力、ね。
つまり、声優としての俺は絶賛。応援し過ぎて、イベント参加券を求めるほど。しかし、学生としての俺は不満。そうゆうことか。
ならばそれは応援してくれているということ。
「ありがとう。お前がファンになってくれたようで、嬉しいよ」
少し厭味ったらしい言い方で、俺はそう言ってやった。
それには腹を立てるかと思ったが、邦朗は逆に嬉しそうな表情をする。そして驚くほど気持ち悪い表情で言った。
「お前、声優の園田冬樹本人だ」
どのポイントで納得してくれたのかは分からない。それでも、やっと信じてくれたらしい。
無意識に、演技力を使ってたのかな。学校に通ったとかではないし、俺に演技力があるとは思えないけどね。
「さっきの言い方凄い好き。もう一度お願い出来ないかな」
中学からの友達にそんなことを言われて、どう対応すればいいのだろう。これは声優あるあるとか、そんなんじゃないよね。
正直気持ち悪いと思う。
邦朗も、その隣で笑っている夏海も。
「夏海も凄い好きでした! 是非お願いしたいです」
二人に詰め寄られて、俺は戸惑ってしまう。
だってさ、キャラクターならともかくリアルで言われたらムカつくから。クソ腹立つような、そんな言い方わざわざしたんだぜ? もう一度って可笑しいだろ。
「同感。もう一度聴きたい」
どうしていいか分からずにいると、父さんまでそんなことを言い出した。
ここまで来ると、俺をからかっているんじゃないかと思う。むしろバカにしているんじゃないかと思う。
分かっているよ? 少なくとも絶対に、夏海にそんな気がないことは分かっている。
「気持ち悪、皆で何言ってるの? それよりも」
途中で俺は言葉を繋ぐことすら出来なくなってしまう。
何? 気持ち悪いと言われて喜ぶとか、三人してどんだけのドMなのさ。そしてそれに俺はどう対応すればいいのさ。
ドSなキャラクターを演じないと言う訳ではない。けれど、俺自身は残念ながらドSではない。
対応の仕方なんて心得ていないし、ほんとその……。困るから止めて欲しい。
「それよりも、なんでしょうか。さあ、続きをお願いします」
周りに人もいるんだし、あんまり騒ぐのは止めて欲しいかな。
特に夏海は酷い。
続きをお願いします、じゃないよ。




