ⅤーⅥ
「誰からの電話ですか?」
恐る恐ると言った感じに、夏海は問い掛けてきた。
そんなに俺って顔に出ちゃうのかな。夏海の兄だから、そう言われては納得してしまうのだが。
「唯織さんだよ。家族でのお出掛けを楽しんでって」
嘘は吐いていない。そう言っていたのだから、嘘ではない。
俺は嘘吐きになっていないと、それしか思っていなかった。しかし、この言葉でもいけなかったらしい。
父さんは納得して頷いてくれた。それでも夏海は不思議そうに首を傾げている。
「お兄ちゃんがお出掛けのことをいおに言ったのですか? まさか、いつの間にか二人の距離は夏海を挟まなくても近付いて。いおは夏海ではなくお兄ちゃんに電話を掛けるほどに、とでも言うのでしょうか」
この言葉で考えると、夏海は唯織さんに出掛けると言っていないことになる。それならば、どこでその情報を入手したのであろう。
それに普通に考えたら、俺じゃなくて夏海に電話するもんな。
唯織さんと俺の距離はそんなに縮んだりしていない。そう考えると、夏海が首を傾げるのも当然だな。
「きっと唯織さんなりに何か事情があったんだよ」
これ以上何か言っても、墓穴を掘るだけだと思い安全そうな道に逃げた。
夏海は優しい子だから、俺が話を変えて欲しいと思っているのを分かってくれる。分かってくれて、優しさを起動させてくれる。
「そうですね。いおのことですから、照れ臭いとかそんなものでしょう。恥ずかしがり屋さんですから」
全く恥ずかしがり屋には見えなかったのだが……。
そう思うのだが、それを口に出しはしない。折角夏海がこの話を終わらせてくれたんだから、俺は大人しく話題提示を待てばいい。
「夏海とユニット組むだけあって、可愛らしい素敵な子だよな。冬樹、唯織ちゃんと結婚したらどうだ」
ふざけてではあるが、父さんがそんなことを言い出す。
その言葉に驚いて、俺は本気で心臓が止まりそうになった。唯織さんと結婚、想像しただけでも恐ろしい。可愛らしい素敵な子は俺も思うし、嫌いでもない。
だけど、束縛とか半端なさそう。
「だめです! お兄ちゃんは夏海のものですから、いおにだって絶対に渡しません」
俺よりも夏海は過剰に反応し、必死に前言撤回を求める。
「いいや! 冬樹は父親である俺のもの。そして夏海も俺のもの。絶対に渡さない」
最終的には、そんなことを言い出していた。ただ、話題から電話や唯織さんのことが完全に消え去ってくれて嬉しい。
これも、二人の優しさなんだろうか。




