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「二人とも、お疲れサマー」
俺たちが帰ると、父さんは玄関で待ち構えていてくれた。
この暑い中わざわざ外で待っているなんて。そんなところも、父さんらしいなって思った。
「夏海を殺すつもりですか! 暑い、首締まる。お兄ちゃん、助けて下さい」
父さんの太い腕に抱き締められ、夏海は笑顔でもがいていた。
確かにあれだけべったりくっ付かれたら暑いであろう。それに父さん、結構汗掻いているからべたべたもするんだろうな。
「ほら、行くぞ。どこに連れて行ってくれるんだか、楽しみだな」
本当に夏海が死んでしまいそうであったので、そう言って俺は一応救ってあげる。
俺よりも夏海の方にメロメロな父さん。父親としては、娘にメロメロなのは仕方がないことなのであろう。
しかし俺にも父さんは優しい。
こんな感じのことを言えば、夏海を解放して俺の方に来てくれるのだ。
「楽しみか? 夏海も冬樹も、きっと喜ぶと思うぞ」
本当に嬉しそうにしているから、俺も夏海もはも反抗心なんて生れないんだと思う。
うちの父さんは素直で天然で、優しくて何よりも俺たちを大切にしてくれる。子供のように無邪気な父さんだから、いつまでも父さんに懐いているんだと思う。
俺たちの為に頑張ってくれているから。寂しがる姿なんか、見たくないから。
「どんなものでしょう。夏海も楽しみです! お父さんとお出掛け、とってもとっても嬉しいですもん」
そう言って夏海も笑う。
三人で雑談を楽しんでいたとき、俺の携帯が鳴った。
「ごめん、電話だ」
二人に微笑んで、俺は電話に出る。そして驚愕した。
『ワタシのなーちゃんです』
唯織さんの低い声。
そもそも、唯織さんは今日一日仕事だと聞いている。それなのに、いきなり電話なんて掛けてきてどうしたのだろう。
俺は唯織さんに対して本格的な恐怖を感じていた。
『何度言ったら分かるのでしょう。なーちゃんはワタシの物です。なーちゃんの可愛さを考えれば、シスコンも仕方がないので咎めません。しかし、少し度を越えているようですね』
失礼な。多少シスコンの自覚があるときもあるけれど、断じて度を越えてなどいない。
それに、普段はただの兄。
兄が妹を大切にするのは当然のこと。それをシスコンを呼ぶのは少し違うのではないであろうか。
『ワタシのなーちゃんであることをお忘れなく。それでは、久しぶりの家族でお出掛けお楽しみを。絶対になーちゃんを楽しませてあげるんですよ』
その言葉に驚くしか出来なかった。
どうして唯織さんが家族で出掛けることを知っているのであろう。夏海が教えたとか? まあ、そうとしか考えられないよな。
そんなことを考えていると、電話はもう切れていて、夏海と父さんが心配そうに俺の顔を見ていた。




