ⅤーⅣ
アリスちゃんの言う通りだな。
俺は夏海の兄なんだ。兄として恥を掻かない、そして夏海に恥を掻かせない振る舞いをしなければ。
いつでも夏海は笑っている。笑顔は夏海のいいところ。
だから、夏海の兄として俺も笑顔くらい浮かべていられないと。
家でまで笑顔を浮かべていられるほど、俺は強くない。だけど、外でくらい。せめて仕事のときくらいは、笑顔でいないといけないよね。
それに、俺が夏海のイメージを悪くしちゃ大変だし。
「アリスちゃん、ありがとう」
一言アリスちゃんにお礼を言って、俺は笑った。
「可愛いです! さっきの笑顔、最高に可愛かったですよ。お兄ちゃん大好き!! それでは、早く行きましょうか」
俺の笑顔に、夏海は嬉しそうな笑顔で返してくれる。
そうだよね。夏海じゃなくたって、きっと笑顔には笑顔が返ってくる。不機嫌な顔をしていれば、相手だって笑顔になり辛い。俺が笑顔でいれば、相手も笑顔になってくれる。
いっそのこと、俺が笑顔なら世界も笑顔。
とか、それくらい考えていた方がいいだろう。常にそう考えていれば、俺ももっとナルシス……ポジティブになれるから。
「最高です。お兄ちゃん、最高です」
息をするように夏海はそんなことを囁いてくれる。
恥ずかしいけれど、夏海のおかげで俺が自信を持てているのも確かだろう。むしろ大袈裟だけど、俺が生きているのは夏海のおかげと言ってもいいのではなかろうか。
「夏海、可愛いよ」
だから俺も、同じように返してあげるんだ。
決してシスコンとか、そうゆう訳ではないので勘違いはしないで欲しい。
元々俺の仕事は夏海の応援をすること。恥ずかしがらないで、夏海にそう言ってあげないと。
仮にも俺の仕事は声優。恥ずかしがらないで、キラキラ台詞も言えるようにしないと。
「今日はありがとうございました」
目立った失敗もなく、今日はしっかり遣り遂げることが出来た。
てか声優になって気付いたんだけど、アニメの仕事ってないもんだね。アニメていうよりはゲームの方がて思うんだ。
いや別に、ゲームだからと言って俺の仕事が多い訳ではないけれど。
「それでは帰るとしましょうか。お兄ちゃん、今日もとってもカッコ良かったです」
収録は午前中で終わった。本当に、それは良かったなと思う。
今日の午後は父さんが休みなんだ。
そして久しぶりに一緒に出掛けようと言ってくれた。
疲れているだろうに、俺たちをどこかに連れて行ってくれると言う。
場所は秘密と言われた。そんなところは、夏海の父親なんだなと思う。とてもあの人らしい。




