ⅤーⅢ
「ちょっ、何を仰っておられるのですか! 確かにお兄ちゃんの魅力にメロメロ、的なことは以前も仰られていましたが……。そんなのは、酷いですよ。お兄ちゃんは夏海のものだって、分かっている筈なのに。自分のカッコ良さだって分かっている筈なのに、そうやって惑わすようなことっ!」
この二人の茶番、きっと俺も着き合ってあげるべきなのであろう。
そうだよね。仕事場でそれくらいのこと出来ないと、それはプロとは呼べない。そうゆうことなんだろう、きっと。
「はい、分かっています。それでも、冬樹さんに恋をしてしまったんです」
こ、恋をした? きっと、夏海の影響だよな。
夏海がこのキャラで行くからだろう。だから、俺をそうやってからかうってのが流行っちゃったんだろう。うん、そうだよ。そうに違いない。
だったら、俺もそのキャラで通せばいいじゃん。
メチャモテキャラ? 恥ずいけど、そのキャラ通せばいいんだ。プロとして、恥ずかしさに負ける訳にはいかない。
そう言い聞かせればいい。俺はプロだ、俺はこんなのでもプロの声優なんだ。
確かに妹の七光りで出て来ただけで、俺には才能も何もないけれど……。
「収録、冬樹さんの隣でしたいです。しかし仕事ですし、そんな我が儘を言っている訳にも行きませんよね。それではっ」
爽やか微笑みを浮かべ、爽やかイケボでそう言った。
そしてもう一度微笑むと、千博さんは去って行く。
「きっと、夏海のことが羨ましくて仕方がないことでしょう。兄妹と言うだけで、お兄ちゃんと一緒にいることが出来るんですから。あの園田冬樹と同棲だなんて、皆羨ましくて仕方がないでしょう」
逆ではないだろうか。俺のファンだって多少はいてくれるかもしれないけれど、夏海ファンとは比べ物にならない数だろうし。それに俺のファンだって、夏海教の序でという感じであろう。
信者として見れば、夏海様と一緒に暮らしている俺。信者として一応俺のことを悪くは言わないであろうけど、悪くは思っている筈。
それに、夏海だけじゃない。あの大人気声優、双葉唯織さんとも友達のように接して。
それこそ羨ましくて仕方がないだろう。
兄妹と言うだけで、大人気声優に会える。
声優を目指している人としても、俺みたいな奴は気に入らないだろう。
兄妹と言うだけで、声優の仕事だって才能もないくせにやっている。
「どうしてそんな表情するの? 夏海さんのお兄さんとして恥ずかしくはないのかしら。園田冬樹さんはね、笑顔が可愛い園田夏海さんの兄なのよ」




