ⅤーⅠ
それでも園田夏海の兄、としか俺は。
一生懸命夏海が頑張って、手にした人気。そこに俺が現れて、大した努力もせずに出演本数を増やして行って。
だって俺がいて夏海がいない、そんな現場は一度もない。その時点で、俺なんて夏海の兄でしかないじゃないか。
勿論、夏海は出るけど俺が出ないとか。そんなことはよくある。俺はただスタジオに呼ばれて、夏海の応援をするだけ。正直、他の共演者からしてみれば邪魔で仕方がないだろう。
「いただきます」
聞こえないふりをして、俺は食べ始める。
物理的に喋ることが出来ないようにしよう。そうすれば、答えを返せないのも仕方がない。
そう思い、必死に口に沢山詰めた。夢中で食べている感を出す為、笑顔も作った。
その日の翌日は、久しぶりに仕事であった。唯織さんも仕事だとは言っていたが、同じ仕事ではない。普通に唯織さんと夏海は別々の仕事、偶々今日だっただけで。
しかし久しぶりポイントはそこじゃない。
俺もなのだ。最近応援ばかりだった俺が、出演するのだ。
「おはよう。早く行きましょう。どう? 台本はちゃんと読んだのよね」
いつも通り、アリスちゃんが迎えに来てくれる。そして当然のことを問い掛けて来た。
俺なんかがミスをしたら行けない。そう思い、暗記するくらいに何度も読んだ。
そして夏海もそれは同じだ。
学校の勉強も大事だけど、仕事はお金を貰っているんだからもっと大事にしたい。そう思うんだ。
単純に、迷惑は掛けられないし。
「まあ、一応は。プロとして、NGは出しません。えへっ」
強くそう言った後、夏海は可愛らしく笑った。
ギャップ萌えって、こんな感じなのかな。
「ええ。今日も頑張って頂戴」
微笑んで、アリスちゃんは歩き出した。
素っ気ない言い方だけど、そこがアリスちゃんらしい。
彼女は本当に夏海想いだ。
何よりも夏海を大切にしてくれる。いつでも夏海を信じ、支えてくれる。
「はい。夏海、一生懸命頑張ります」
だから夏海はそれに笑顔と人気で応えるのだろう。
それがアリスちゃんにとって、嬉しいことだと分かっているから。
「お兄さんも頑張って頂戴」
一応、アリスちゃんは俺にもそう言ってくれる。
それでも、夏海とは扱いが違う。そんなの、当然ではあるのだけど……。
そもそも俺のことは、お兄さんと呼ぶ。
その時点で、俺は兄でしかないんだ。夏海の兄であって、冬樹ではないんだ。
「はい。迷惑を掛けないよう、頑張ります」
しかし俺も、それを表面に出したりはしない。
笑顔でそう答える。唯一の特技と言えるだろう。
作り笑顔。




