ⅣーⅢ
「今日はそろそろ終了の時間ですね。ある程度の攻略が進みました。これも全部、お兄ちゃんが傍にいてくれたおかげですよ」
パソコンを片すと、夏海は優雅に微笑んでくれた。
その姿はあまりにも美しくて、手の届かない存在に見えた。まるで天使の微笑みのように、俺の目には映っていた。
決してシスコンと言う訳ではない。
それは違うのだが、今の夏海が天使に見えてしまう。
「お兄ちゃんが傍にいると、夏海は頑張れるんです。いつもそれで結果だって出ているんですから」
関係ないと思うけどな……。
でもまあ、結果が出ているんならいいか。
そんなことを話していると、俺の携帯が鳴った。
確認すると、唯織さんからの電話らしい。忘れ物か何かだろうか、その程度にしか思っていなかった。
だから電話に出たとき、少し驚いてしまった。
『ワタシのなーちゃんです』
低い声でそう言われた。さすがに結構一緒にいるから唯織さんの声であることは分かる。
しかし、物凄く低い声でそう言われた。
どうゆうことだろう。不思議に思ったが、いつもの悪戯だろうと納得。
『ワタシのなーちゃんに手を出さないで下さい。面白いからいいとも思いましたが、まさかそこまでとはね。シスコンだとは思いましたが、かなり重症のようですね。なーちゃんよりもずっと重症ですよ』
何を言っているのかさっぱり分からなかった。
どうして唯織さんはわざわざ、電話を掛けてまでこんなことを? その理由が俺には理解できなかった。
『喋らないで下さい』
俺が問い掛けようとした。そのタイミングで唯織さんはそう言った。
さすがは唯織さん。電話越しでも俺が喋ろうとするタイミングが分かったのか。
喋らないでと言われたら、それに従うしかあるまい。だって、なんか変わった雰囲気してるし。
いつもの唯織さん以上に恐怖を感じた。
俺は唯織さんに怯えていた、そうなのだろうか。
「お兄ちゃん、どうしたんですか? 凄い表情していますよ」
隣で心配そうに夏海が聞いてくる。
この部屋を出た方がいいだろうか。夏海の心配そうな顔、見てはいられないから。
『なーちゃんの声がしました。すぐ隣にいるんですね? だったら、尚更喋らないで下さい。絶対。なーちゃんを心配させたりしたら、どうなるか分かっていますよね? ワタシにとってなーちゃんは全てですから』
どんな耳をしているんだろうか。
夏海の小さな声が聞えたとでも言うのだろうか。叫んでいるならともかく、今の夏海の小声が。
益々唯織さんに恐怖を感じていた。




