ⅣーⅡ
「否定がありませんね。もしかしてお兄ちゃん、やっと本格的に考え始めてくれたんですか? お兄ちゃんが大人になってくれて、夏海はとても嬉しいです。早速今夜どうでしょうか」
俺の沈黙に、夏海はそんなことを言って来る。それも、バリバリ本気な顔で。
ずっと真剣な顔して画面を見つめている。しかしそのせいで、冗談には聞こえないのである。
さすがの夏海だって、冗談に決まっている。
それなのに俺は、突っ込むことも出来ないのだ。ボケ殺しは良くないこと、それは分かっているのに。
右手にハエ叩きを握り締め、叩くことが出来ないでいた。
どうしてだろう。夏海が可愛くて、ハエ叩きを握る右手が動かないのであった。
「あれ、これも否定なしですか。お兄ちゃんが変わってくれて、夏海はとても驚いています。ギルド夏海教の凄さのおかげですか? 何にしても夏海は嬉しいです」
否定するつもりはあるんだよ。
このまま固まっているだけじゃダメだ。そんなんじゃ、俺は俺じゃなくなってしまう。そんなの、ダメに決まっている。
夏海が喜んでくれるのは嬉しい。
でも、これはダメだと思うんだ。兄妹でそうゆうのは、良くないと思うんだ。
「何言ってるんだよ。そんな訳ないだろ? はははっ」
爽やかに流そうと試みる。
今の俺には、この程度で限界だったのだ。どうして、夏海に強く言えないのだ。
というよりも、夏海が可愛く仕方ないんだ。ハエ叩きを持っているのに、叩くのは可哀想で。
以前だって、優しく叩いていた。そりゃまあ、怪我でもされたら大変だし。
オーバーリアクションだけど、そこまで痛くは無かった筈。そう、安全は保障されているんだ。
確かにゲーム中だから邪魔できない。こんな真剣にやってるから邪魔する訳にはいかない。何百人の邪魔をすることなんて出来ない。
そうゆう気持ちだってある。俺だって、ゲームに架ける想いは変わらないから。
「お兄ちゃん、とても優しいです。でもそんな訳ないとかその笑い方とか、地味に傷付きますよ。心への攻撃を開始することにしたんですか? 酷いです」
言い方は優しくても、夏海にはしっかり効果あったらしい。
金縛りにあったみたいに動けなかった。あの状態で言えるのは、それで限界だったから。
だから一生懸命言ったんだ。
夏海を決して調子に乗らせないように。これ以上野放しにしておけば、本当に何をし出すか分からないからな。
いくら可愛くても、一線を越えたらいけないと思う。
取り敢えず、俺にはそれくらいの常識はあるもん。夏海と一緒にしないで欲しい。




