ⅡーⅨ
しかし、この俺としたことが。なんという不覚だろう。
こんなこと言ったら、夏海が調子に乗るって分かってるのに。思ったから、そのまま口に出してしまった。
「……ありがとうございます。お兄ちゃんに褒めて貰えて、夏海はとっても嬉しいです。しかしどうして、あのタイミングで? 夏海は何もしていなかったありませんか」
あれ? あんまり調子には乗らなかったや。
普通に嬉しそうに笑っている。お菓子を貰った子供とか、そんな感じに無邪気に喜んでいるようだ。
素直で無邪気で、そんな感じだね。どうすればいいんだろうか。夏海のことがかなり可愛く見えてしまっている。
でも、前からそう思ってたもんね。調子に乗りさえしなければ、夏海は可愛くていい子なんだから。
「ふとあのタイミングで思ったんだよ。でもやっぱ夏海は、笑顔が可愛いな」
そんなことを言って、俺は夏海の頭を撫でてあげた。
しかしその時、恐怖の視線を感じたのであった。いつの間にか、横島さんも唯織さんも俺達のことを見ていたらしい。そう思うと滅茶苦茶恥ずかしくなってくる。
顔が赤くなっているのが、もう自分でも分かった。夏海の頭から手を離し、その手でそのまま自分の顔を隠してしまう。
今更遅いって? そんなの分かってるよ。でも恥ずかしいから、俺は顔を隠していた。最早手で隠すのもあれで、正座から土下座のような体勢に変わっていた。
「お兄ちゃん、どうしたんですか? 可愛いって言って貰えて、夏海はとっても嬉しかったんですよ。ねえねえ、もっとなでなでして欲しいです」
包まる俺を夏海が揺らしてくる。しかし俺に動くつもりなどなかった。
子供レベル、そうは思うけど。そうは思うんだけど、復活するまで待って欲しいかな。
しかし俺の願いが届きはしなかった。夏海ではなく、もっと危険人物がその場にいたからだ。
「冬樹さん、ちょー可愛いですよ。写真撮ってもいいですか? 抱き着いてもいいですか? 襲っちゃってもいいですか? そんな姿でいるんですし、何をしても構いませんよね! それはファンサービスなのでしょうっ!?」
夏海だってもっと冷静なのに、横島さんは最早助からないね。
その様子だと、本気で俺は襲われてしまうんじゃないかと思った。だからその体勢のまま、少しだけ動いて横島さんの攻撃を避けた。
「いつまで虫みたいな格好しているんですか? なーちゃんの兄として、もっと誇れる堂々とした態度を取ったらどうでしょう。地べたに這い蹲って、もしかして踏まれたいんですか? 妹が可哀想ですよ、そんな趣味」




