Ⅰ
俺は父さんと妹の三人で暮らしている、ごく普通の高校生だ。
しかしそんな普通の俺の前に、普通ではない少女が現れた。
背が小さく、顔も幼い。髪は茶色くふわふわで、腰の辺りまで伸びている。目はクリクリと大きく、可愛らしいリスを連想させるような顔だ。
「貴方はもしかして、園田夏海さんのお兄さんかしら?」
高く幼い声で、それでも少女は大人っぽく言ってみせた。
そして満足そうに、俺を見てくる。
「そうだけど、夏海呼んできた方が良い?」
俺は少女を、夏海の友達だと思い呼びに行こうとした。
夏海の名前を出しているのだし、外見的には小学生に見えるが、きっと夏海の同級生なのだろう。彼女が家に友達を呼ぶことは珍しいので、ちょっとした驚きもある。
夏海というのは、俺の妹であり中学三年生。しかし部活もやっておらず、友達と遊ぶ気配もない。
兄として少し嬉しく思いながらも、俺が行こうとすると、少女は俺の手を掴み引き止めた。
「違うわ、私は貴方に用があって来たの。私は夏海さんのマネージャーなのだけど、貴方から説得してくれない? あの人に辞められちゃうと、私も困るのよね」
どうゆうことなのだろう。マネージャーって何の話だろうか?
「えっでも……」
俺が喋ろうとすると、少女は俺の手を小さな手で掴んだ。
戸惑うばかりで、どう対応したら良いのかさっぱり……。
「夏海さんはお兄さんが大好きなようだから、貴方が言えば聞いてくれると思ったのだけれども……」
この少女が口にしたように、夏海は所謂”ブラコン”なのだ。
夏海のやつ、外ではちゃんとしてるって言ってたんだがな。それと本当に、マネージャーってどうゆうことなのだ。分からない、分からないな。
意味の分からないばかりで、呆然と立ち尽くしてしまう。