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love it  作者: 滝沢美月
2便
10/78

恋が実るための秘密のレシピはあるのかな? 5



 お昼ご飯を食べるために五階の休憩室に上がってきた私と紅林さん。

 紅林さんは工場でとってくれる仕出し弁当を頼んでいたようで、それを事務で受け取ってから奥の休憩室にやってきた。先に椅子に座った私が机の上に出したのは夕飯の残り物とかをつめた手作りのお弁当。


「いただきます」

「いただきますっ」


 紅林さんが座って両手を合わせて、私も一緒にいただきますと言って食べ始める。

 休憩も取らずに仕事を続けそうな勢いだったから、つい紅林さんを休憩に連れてきてしまったけど。

 ちらっと盗み見るように視線だけを紅林さんに向けた。

 こんなふうに紅林さんと二人きりでお昼ご飯食べるなんて、ちょっと緊張するかも。

 なんか喋らなきゃとも思うし、いろいろ紅林さんに聞いてみたいことはあったけど、喋りかけにくくて、黙々とお弁当を食べていたら、紅林さんから話しかけてきた。


「手作り?」

「えっ、あっ、はい。昨日の夕飯の残りとか詰めてるので、全部が自分の手作りではないですけど」

「そうなんだ、美味しそうな卵焼きだね」

「卵焼きだけは朝焼いてきたんです」

「へー、料理上手なんだ」

「卵焼きくらいで料理上手って、基準低くないですか?」

「そう? おいしい卵焼きが焼ける女の子は料理上手だと思うけどぉ~?」


 他愛無い会話をしていたら。


「って、そうじゃなくて」


 と、なぜだか紅林さんが苦笑する。


「お弁当じゃなくて、服のことを聞いたんだけど」

「服――、がなんですか……?」

「その服ってもしかして手作り……かなって」


 言われて私は自分の格好を見下ろす。

 なんてことないデニム地のノースリーブのシャツワンピに黒のスキニーパンツを合わせているんだけど。シャツワンピにはチェック柄のポケットがいくつもつき、胸元には兎の刺しゅうが入っている。

 確かにこれは学生の時の課題で作ったものだけど、一見して手作りと分かるような粗野な作りではない。一応、お店で売れるくらいの縫製をしているんだけど……


「よく分かりましたね……」


 驚いてぼそっともらすと、紅林さんはふっと甘い笑みを口元に浮かべるから、心臓に悪い。

 なんでいちいちちょっとした仕草がこんなに色っぽいのだろう。

 私が紅林さんのことを意識してるから……?

 ううん、きっとどんな女性だって紅林さんの異常に駄々漏れの色気にはあてられるに違いない。

 紅林さんは自分の推測が当たったのを嬉しそうに微笑む。


「前にも、その兎の刺しゅうのある服を着てたから。一見したらどこかのブランドかなと思ったけど、あまりに宇佐美さんの体系にぴったりだから、もしかしてっと思って」


 うーん、確かに基本的には課題で作る衣装は標準サイズで作るんだけど、実際に自分が来て発表したりすることもあるから、中には自分のサイズにぴったりに作ったものもある。


「それに、宇佐美さんによく似合ったデザインだから」


 お弁当のおかずを口に運びながら流し目で言われて、私はもう心臓が飛び出しそうだった。

 なんで、そんなセリフ簡単に言えちゃうんだろう……

 よく似合うとか、どこかのブランドかと思ったとか、なんでそんなに私を喜ばせることぽんぽん言えちゃうんだろう。

 胸の奥が熱くなって、なんともいえない感情がうずまく。


「確か、家政学部だったよね、課題とかで作った?」

「はい、そうです」


 ってか、よく私が家政学部だったこと知ってるなと思い、そういえば……と面接のときの記憶が甦る。

 確か、大学の学科名を見てどんなことやっているのか聞かれたような……?

 あの時は緊張のしすぎでなにを聞かれてなんて答えたか、すべて頭の中からふっとんでしまっていたけど。


「やっぱ、アイロン上手だね」

「えっ?」


 唐突に小さな声でぼそっとささやかれて、面接のときのことを思い出していた私は紅林さんの声が聞きとれなかった。聞き返したのに、意味深な笑みを浮かべて誤魔化されてしまうし。

 なんだか紅林さんはずっと使われていなかった倉庫から掘り出し物を見つけたような、とても嬉しそうなにこにこ笑顔を浮かべて私を見ていた。

 たぶんその後くらいだと思う。急きょ法事や怪我で休んでいた人たちが職場に復帰して一時的な人手不足は解消したはずなのに、あちこちのフロアに呼ばれては行く先々で紅林さんがいて手伝いをさせられて。気がついたらアイロンもまかされていて。

 紅林さんが私にちょっかいをかけたりからかったりするようになったのも、そのあたりからだと思う。

 バイトはじめて半年ちょっとでアイロンを任されるのは早すぎなんじゃないかって思うけど、長瀬さんや江坂さんは工場長に見込まれたんだから頑張って、ってすっごく他人事に言うしさ。

 なんだかんだ工場長のそばで作業することが多くなって、うかっり工場長に見とれてしまって工場長と視線があったりすると、天使も裸足で逃げ出すような麗しい微笑みを浮かべて。


「宇佐美さん、暇そうだね。じゃ、これ十三時までに仕上げお願い」


 とかとんでもない量の仕事を押しつけてくるし……

 いちいち私のファッションに口出ししてくるし、くだらないことでからかうし、子ども扱いだし、ちょっと意地悪だし。

 でも、なんだか工場長のことが気になってしまう。

 中学から大学までの十年間ずっと女子校に通ってて恋愛の恋の字とすら無縁だった。

 名前のつけられない微妙な気持ちが心を満たす。この気持ちはなんだろう。こんな気持ちは今まで知らない。

 ただ一つ分かるのは、工場長にとって自分が恋愛対象外だということだけ。

 この間なんか、シフト表を出そうとしたら。


「ちゃんと名前を書いた?」


 なんて、ちょー子供扱いだしっ!

 自分ばかりが工場長の行動に振り回されてドギマギさせられて悔しい。




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