幸せな時間。
「・・・寝起きにしても目つき悪いなぁ?」
苦笑混じりに言われ、思い切り顔をしかめている自覚があったから反論はしなかった。
もちろん・・・、痛さのあまり口をきくのもおっくうだったからという方が正しいのだけど。
「頭痛い」
ぽそりとつぶやいて口の悪い相棒の足下に座り込むと、おもしろがるような表情が少しばかり変わる。あいているソファに座らないのは、動きたくないという意思表示でもあるし、単に床に座るのが好きだからかも知れない。
「まぁた、いつもの頭痛か? 最近治まってたのになぁ」
じゅうたんの上に座り込んでいる私の頭を軽くなでた相棒が「邪魔なところに座ってからに」と言いながら私をまたぐようにして台所へと姿を消す。
偏頭痛とでもいうのか、私は昔っから時折酷い頭痛に悩まされていた。痛み止めを飲んでも効かないことの方が多く、半ば以上はただ横になって痛みが治まるのを待つしかった。せめてもの救いは半日から一日で痛みがひく事だろう。
体を巡るリズムに合わせるようにして頭の奥から響いてくる痛みが、少しでもやわらがないものかとこめかみをもんでいると、陶器のカップと小さな白い錠剤が2粒のったてのひらが視界に割り込んできた。
「ほれ、気休め持ってきたぞ」
「・・・きやすめ?」
確かにあまり効いてる気がしないけれど、気休めと言い切られたら製薬会社の人がかわいそうだなぁ、などとぼんやり考えてしまう。気休めだと決めつけてしまったらプラシーボ効果がなくなりそうな気がするけど・・・。
「さっさと飲めよ?」
せかすような言葉にふと我に返る。痛い時っていうのはどうしてか思考がおかしな方向に流れやすい。
意識を現実に引き戻すと、しゃがみこんでいる相手のてから錠剤を受けとり、カップの中身で飲み下す。猫舌の私にあわせたややぬるめの白湯は、寝起きのかわいたのどに気持ちがいい。
「薬を素直に飲むいい子にはご褒美、だな?」
冗談めかした口調はいつものことだ。こいつが真剣なことなんてあんまり見たことがない。そのくせ相棒は私の不調に私自身よりもずっと心配性だった。
ソファによじ登って体を伸ばすと、毛足の長いやわらかなラグがソファがバーから毛布に早変わりする。
大きな手が髪をなでてくれる感触にひかれるようにして目を閉じた。
私が調子悪いと言うたびに、相棒はいつも眠るまで髪をなでていてくれる。昔からその感触が好きで、心配してくれるのが嬉しくて、酷く頭が痛むはずなのに眠りが訪れるのはいつもはやいのだ。
もう少し我慢して起きていようと思うくらいに。
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