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日々の記憶。  作者: ちびやな@やなぎ
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あこがれの食べ物。

作中に出てくる食べ物に関する感想はちびやな@やなぎの個人的感想です。

ブラックコーヒーを飲めない味覚での感想なので、その辺を割り引いてください。


 相棒と本屋に来ていたときのことだ。二人で料理本のコーナーをながめていると相棒は棚から一冊を引き抜いた。

「へぇ? こんな本あるのか」

 そう呟いて、私に表紙をみせたのは、絵本に出てきた料理を実際に作ってみよう、というレシピ本。

「あぁ、結構前からあるよ、それ」

「お前が喜びそうな系統だけど、あんまり興味なさそうな反応だな?」

 少しばかり意外そうな相棒に私は肩をすくめる。

 絵本にでてくる食べ物がなんだかすごく美味しそうに思えるのは、誰でも一緒なのだろうと思う。だからこそ、こういう本が出版されていて、しかも続編まで出ている。けれど、私はあんまりそのたぐいの食べ物に夢を抱かない……というか、抱いていた夢を壊されたというべきか。

「夢は夢のまま、メルヘンの世界にとどめておくべきだと思うよ」

「またかわいげのない」

 相棒がレシピ本を広げつつ、苦笑混じりの返事をよこした。おもしろそうなレシピでものっていたら作るつもりなんだろうか。

「確かにお前はそういう所あるけど、なんでまた?」

「あのね、昔タンポポコーヒーって飲んだのね」

「あぁ、なんかねずみが主人公の絵本に出てきたあれか。四季のイベントがまぁ綺麗な絵でお前と雪都のお気に入りのやつ。確かに美味しそうだよなぁ、あれも」

 あれは俺も興味ある、と返事を寄越され、私は小さく肩をすくめる。

 ちなみに、雪都さんは相棒の恋人で私の仲良しの先輩でもある。

「ところがどっこい、激まず」

「……そんなにかよ」

 思いっきり断言すると、相棒は本から目を上げてこちらを見る。

「少なくとも私は飲み物じゃないと思ったね。もう苦くて苦くて、蜂蜜を大さじ二~三杯入れても、口に入った瞬間苦いか飲み込んだ後苦いかが変わるだけっていうすさまじさ。もはやあれば薬だね。私の中ではPL顆粒と苦さランクではるよ」

「……いや、お前それ食べ物じゃないだろ」

 医者にかかると良く出される風邪薬を引き合いに出したせいかげんなりした返事が返ってきた。けれど、私にとってはその位きつい飲み物だったのも事実。

「じゃあフスタギン末とリンコデ酸のミックス」

「それも漢方薬と医薬品だろうが」

 次に出したのは私が咳をこじらせた時に良く出される薬。

「食べ物にたとえられないのか、食べ物に……」

「んじゃあ、……カカオ九九%チョコ?」

「…………あぁ、なんかもう食べ物の範疇を超えた苦さなのだけはわかったよ」

 苦笑いで頭をかいた相棒の返事はもう諦め混じりだった。

「後は、ほら、例のオムレツ。あれはあこがれたけど」

「家ぐらいありそうな巨大卵で作ってたあれか? これにも載ってるな。それがどうかしたのか?」

「その本見て、なんだ、こんな小さいのか、って思っちゃった」

 素直な感想を言うと、相棒が吹き出す。

「このぐらいが常識的な範囲じゃないのか? そりゃ、確かにあの絵を見る限り、すごい大きなイメージあったけど」

「そこだよ。私にとってあのオムレツは、泳げそうなくらい大きなフライパンで作ったのだもん。そこらのフライパンなんて当たり前のサイズじゃつまらないじゃない」

「正論っちゃ正論なんだが……。それはそれで夢がないような気もするなぁ」

 相棒が今度はなにやら考え込むような表情を見せた。

 確かに、絵本の中に出てくる料理やお菓子を作ってみよう、という発想自体が夢のあるものだ。それに難癖をつけるというのもおとなげないというような気がするのは確かだった。

「だけどさ、私はこうも思うんだよね。あり得ないとわかっているからこそ夢があったんだってね。たしかにあのオムレツは一度食べられるなら食べてみたいよ? でも、そのあこがれってやっぱり、あんなに大きいのを作って、みんなで楽しんで食べたっていうのが大きいと思う。だから、うちのフライパンで作って二人で食べてもつまらないかなーって」

 私の言い分を聞いて、相棒は「ふむ?」と小さく呟いた。

「それは、今度雪都も呼んで三人でパーティをしようってことだな」

「……はい?」

 突然話が変わって私が要領を得ない返事をすると、相棒はおかしそうに笑っている。

「つ・ま・り。大勢で楽しく食べる、も込みで再現すればいいんだろ? 他にも呼びたい奴がいたら何人でもいいぜ? ホットプレートサイズで作ってやるよ」

 閉じた本で私の頭をぽんっと叩いて、相棒は「発想がかわいいよなぁ」とまだ笑っている。

「別にそういう意味じゃないよ」

 なんだかくやしくて眉間にしわをよせたけど、相棒は気にした様子もない。腕を軽く叩き返したら「怒るな怒るな」と、全然気にしてなさそうな声。

「絵本の中を無理矢理現実に呼び返してもいいことない、ってな。昔雪都も言ってたよ。でも、馬鹿みたいなことやってみんなで楽しんで――って雰囲気を楽しむのはいいことだからな。それこそ絵本みたいじゃないか」

 明るい声だけど、裏に少しだけ別の意味を持っている。それは私だけが気がつけばいいことだから何も言わずにうなずいた。

「じゃ、ついでに私の好きなものも一杯作ってね」

 笑顔を返すと、相棒がうなずく。


 普段は忘れたふりをしているものに、ほんの少しだけ触れられた午後。

 なんだか心がうずくのは、忘れていないのを知っていると再確認させられたからか、忘れたくないと願ったことをせめられた気がするからか……。

お読みいただきありがとうございます♪

一応あれこれ設定のある主人公なので、ちらっとそれが見え隠れしましたが、あまり気にせず流していただいて問題ありません。

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