表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALCZ  作者: 蒼巻
第一章 イラニドロの森
8/97

第7話 二度生まれる剣

俺達は村の隅にある煉瓦造りの家を尋ねた。

「ガルグ、入るぜ?」

俺は律義にノックをしてからドアを開けた。ロードがどんな表情してるかちょっと気になったけど、まあ何も考えてないだろう。


部屋の中は鉄を焼く臭いが充満していた。慣れない俺にはまだ少しきついな。一方のロードは壁に飾ってある剣やら独特の鋼の臭いやらに、故郷に帰って来た旅人みたいな表情を浮かべている。



「よぉアルツ。ん、なんでぇロードもいやがんのか」


奥から低いだみ声が聞こえてきた。暗がりから出てきたのはロードとまではいかないが背の高いじいさんだ。真っ白で立派な顎髭を蓄えているものの、ぴっと延びた背筋のせいで若々しく見える。


「いいだろ?それより見せてくれよ、打ち直した剣」

「馬鹿、おめぇのじゃねぇんだぞ」

ガルグは暖炉の上に置いてあった剣を俺に渡した。頑丈な皮の鞘に包まれている。

「ほれ、抜いてみろ」

ガルグに顎で示されて、俺はゆっくり剣を抜いた。うわっ、くすんでいた刃が嘘みたいだ。窓から差し込んだ夕日に、剣はぞくぞくするような光を見せた。


変な話なんだ。実はこの剣の鋼は、ティリエがメヤリに売ったやつだ。その鋼をメヤリがガルグに売って、俺の剣の新しい刃になって戻って来た。ちなみに剣は狩りを手伝ったお礼だとかで、ティリエが俺にくれたんだ。


「こいつは凄いな。いいのか?こんなの俺が貰って」

「おーおー持ってけ。この間、釜の掃除を手伝った駄賃だ。それにもともとその鋼はおめぇのだってんだろ?いい粘りだ。ここいらの鋼じゃ出せねぇ、いい剣になったぜ」


ガルグの説明はほとんど耳に入っていなかった。あんなおんぼろの剣が、職人の手一つでこんなにも生き返るなんて。でもそれに見入るには、後ろから注がれる食い入るような視線が余りに邪魔だ。俺は剣をしまった。うん、今夜部屋で一人でゆっくり見よう。


「ロード、おめぇのもここらの剣じゃねぇだろうが」

「まあな。でもやっぱり珍しいものは気になるだろ。…で、どうするんだ?」

ガルグの言葉を流しつつ、ロードは俺を見た。

「何が?」

「名前だよ名前。お前の恋人の名前」

あ、そうか。ガルグもそういえば、と俺を見る。よし、あえて主張しておこう。こいつは相棒にはなるだろうが、俺には剣と寝る趣味はない。


「強そうなのがいいよな。そうだな…そのまま『強い』で『グノロトス』はどうだ?」

「おめぇ、それじゃあまりに捻りがなさすぎるだろ。『職人の一振り』で『エノ・ラノイシェホルプ』なんてどうでぃ」

「それは長すぎるだろ。そんなのアルツが覚えられると思うか?」

「おい、どういう意味だよ」

「ははは、違いねぇ。自分の名前も忘れちまってるわけだしな」

「まだクリアーな俺の頭はもともと容量の少ないロードより遥かに飲み込みは早いぜ」

おおっと待てよロード、暴力反対、お前が言い出したんだろっ!






「…で、私に助けを求めるわけね」


机に肘をついてティリエが言う。明かりは机の上の小さなランプだけで、夕暮れを過ぎた部屋の中は随分暗いけど、話し相手の顔を見るには充分かな。


「なんか借りを作るみたいな言い方だな…」

「別にそんなつもりはないけど。あなたの剣なんだから、あなたがつけるべきじゃないかと思っただけよ」

「俺はイラニドロの古い言葉なんてわからないんだ。付けてくれよ、覚えやすいの」

勢いであんなこと言ったけど、俺は覚えやすい、使いやすい、動きやすいのティリエの実用性思考には全面的に賛成してるんだ。


暫く黙っていたティリエは、ふと顔を上げた。

「そうね…『シゼ』はどう?」

「意味は?」

「『双葉』、転じて『二度生まれる』」

言った側から、駄目か、とティリエが再び頬杖をつく。

なるほど、双葉か。

「つまり生まれ代わるってことか?」

「そんな感じね」

「よし、それにする」

俺の返事に、ティリエは拍子抜けといった顔をした。


「随分簡単に決めるのね。貴方の相棒になるのに」

「相棒だからこそ、覚えやすいのがいいんだよ。生まれ変わった剣、いいだろ。シゼに決定だ」

俺は名付けられたシゼを机の上に置いた。ティリエが手をのばし、静かに抜く。シゼはランプの光を受けて、キラキラと輝いていた。

「綺麗。いい剣ね」

「ああ、ガルグは天才だよ」

「彼には武器の声が聞こえるんですって。でもこれなら、少しわかる気がする」

ティリエはシゼの刃をそっと撫でた。まるで愛おしい妹か誰かを可愛がるみたいだ。へぇ、こんな顔もするんだな。


「ロードみたいなこと言うんだな」

「ちょっと、馬鹿にしてるの?」


全く同情するぜ、ロード。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ