表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

⑸ しかしまあ、なんだねぇ

 明里が受験した大学で、最初の合格発表の日を迎えた。


 目標の大学を5校、合格圏に入っている大学を2校受験したが、今日はその中でも目標としていた大学の発表である。

 合否の結果はインターネットで確認する。

 受験番号を入力する事で合否の結果が表示される。


 しかし明里は、その受験番号を教えてくれない。

 発表は午前10時から。

 明里はいつものように朝6時に起きて落ち着かない様子。


 突然玄関で履物を履いている。

「……どうしたぁ?」

「夕食の食材、買いに行ってきます」


「まだ9時だよ」

「近くのスーパーは9時から開店」

「今いかなくても」

「落ちてたら、買い物に行く元気なくなりそう」


「結果発表は今日が最後って訳じゃないんだから」

「行ってきまーす」

 明里は飛び出して行った。


 ……やれやれ、しかし落ち着かないのは私も同様である。

 今、この部屋は私1人となってしまった。

 静寂の中、時計の秒針の音だけが鳴り響いている。

 ……この秒針って、こんなに大きな音だっけ。


「ピンポーン」

 玄関チャイムにビクッとした。

 こんな時に……誰だぁ?

 ここに明里が居たら、笑われてしまうではないか。

 明里が買い物に行ってて……良かったー。


・・・・・・


 9時55分。明里は夕食の買い物を終えて息を切らして帰ってきた。

「ただいまー」

「おかえり」

「まにあったぁー」

「ん?」


「発表はおじさんと一緒にみたいの」

「……そう」

「あーあと3分」

 明里はリビングテーブルの椅子に座り、両手を合わせて祈りながら、足はバタバタさせている。


 10時と共に合否結果サイトにアクセス。

 画面には『現在アクセスが集中しており、つながりにくい状況となっております。しばらく時間をおいてから再度お試しください』

「……」


 5分後、再びアクセス。

 『現在アクセスが集中しており……』


 私は独り言のように言った。

「しかしまあ、なんだねぇ」


「……おじさん……ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「……はい何でしょう」


「何か……楽しんでいませんか?」

「……なんで?」


「……なんか……楽しそうだから」

「いや……そんな事はない」


「……」

「いやーもし残念な結果であっても、明里が落ち込まないように、明るく振る舞おうと……」


「お気遣い頂き、痛み入ります」

「……すみません」

 私は無神経な発言に謝罪した。


「……ごめんなさい」

 明里も心無い返しに謝ってきた。


 私は、明里の落ち着かない様子をみていると、なんだか申し訳ない気分になってきた。


「あー本当は明里と一緒に合否の結果を見たかったんだが……」

 明里は意味不明の表情を私に向けた。


「実は、さっき明里がスーパーに行っている間、明里宛てに書留が届きました」

 私は隠していた封筒を明里に渡した。

 明里が受験した大学からである。


 もちろん開封していないが何か色々入っている。

「開けてみて」


 明里は震える手で開封した。

 中に入っていたのは入学手続き書類一式。それと合格通知。


「おめでとう」

 明里は合格通知を握り締めながら、泣きそうな声で言った。

「……ありがとう……おじさん」

「はい。よくがんばりました」

 私は、明里の頭を髪がくしゃくしゃになるまでなでまわした。


 明里が合格通知を見た時『大喜び』といった表情ではなかった。

 ギュッと眼をつぶって下を向いて……「良かった」と言葉を漏らした。

 必死に応えたかった……そんな表情だった。


 その日、明里の買ってきた食材でゆっくりと食事しながら合格祝いをした。


・・・・・・


 結果として、7校受けて合格したのは、目標としていた1校と、合格圏として受けた1校だけだった。


「目標大学、受かってよかったね」

「運が味方してくれました」


「私が渡したお守りカイロのお陰かな」

「そのお守りじゃ……ないよ」


明里さん。おめでとう。

よく変態おじさんに、ついてこれました。


次回:この部屋は真っ暗で

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ