⑻ 休日出勤
昨日、明里の前期試験が終わり、今日は休日だが学祭の準備で大学へ行っている。
そして、私も休日だが出勤している。
明後日、この3Dプリンターのデモが予定されている。
先週はインテリ君、先々週はリーダー君に、休日出勤をお願いした。
男女平等と言うが、私は女性に休日出勤の要請はしない。
これは、男女差別ではない。区別である。
とまあ、本当はそこまで切羽詰まっていないので、休日出勤を要請しなかっただけである。
3Dプリンターで造形物を1体作るのに、約3時間かかる。
サンプルモデルとして、12種類用意したい。
残り4種類、2台の3Dプリンターで作業する。
9時に出社して作業を開始した。
造形物の情報入れ替え作業を含めても、5時頃には終わるだろう。
ただ待っているだけの作業なので、まったく難しい仕事ではない。
休日の会社は、静かでいい。
ただ、プリンターの音だけが鳴り響く。
つい、眠くなってしまう。
うとうとしていると、研究室の扉が開いた。
慌てて体を起こすと、綾乃が入ってきた。
「あれ、どうしたの?」
「今日、主任が休日出勤との事で、差し入れと言ったら失礼ですが、カットケーキを買ってきました」
「いや~悪いねえ」
「何かお手伝い出来る事、ありませんか?」
「ああ、沢山あるよ~でもそれは来週から。休日はちゃんと休みとってね」
「はぁい」
綾乃は珈琲を淹れてくれた。
他愛のない話しをしながら、買ってきてくれたケーキを2人で頂いた。
そして、1時間くらいで彼女を帰した。
12時になった。
出社する前にコンビニへ寄って、買った弁当を食べた。
食べ終えた弁当を片付けていると、またこの部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、千広だった。
「あれ、どうしたの?」
「今日、主任が休日出勤との事で、差し入れ……と言いますか……和菓子を買ってきました」
「いや~悪いねえ」
「何かお手伝い出来る事、ありませんか?」
「ああ、沢山あるよ~でもそれは来週から。休日はちゃんと、休みとってね」
「わかりました」
……何か、同じ時間を繰り返しているような。
千広は、お茶を入れてくれた。
他愛のない話しをしながら、買ってきてくれた和菓子を2人で頂いた。
そして、1時間くらいで彼女を帰した。
私は、ちょっと気になって、チームの出勤情報をアクセスした。
この部屋に入る際、扉の前で社員証をかざさないと扉を開ける事は出来ない。
よって、誰が何時に来て、何時に帰ったかを知る事が出来る。
この情報をアクセス出来るのは主任以上で、部下に対する健康管理を目的としたものだ。
先週の休日、この部屋に入ったのは、休日出勤をお願いしたインテリ君と、おお、碧が来ている。
碧の滞在時間は30分、差し入れに来てくれたのかな。
そして先々週は、休日出勤をお願いしたリーダー君と、おお、この日も碧が来ている。
碧の滞在時間は30分。
この日も差し入れに来てくれたようだ。
しかし、先週も先々週も、綾乃と千広は来ていない。
ん~。
予定した最後のサンプルモデルの作成を開始した時、この部屋の扉が開いた。
今度入ってきたのは、碧だった。
「お疲れさまです」
「ああ、君もか」
「そのご様子だと、綾乃さんですか、千広さんですか」
「二人だ」
「あ~あっ」
「……どうしよう」
碧は、やれやれ……と言った表情を私に向けて言った。
「主任の たらしには、困ったものです」
ばっさりだ。
「サンプルモデルの作成中ですね」
「あぁ」
「じゃあ」
と言って、碧は缶ビールを取り出した。
「いや~ まあ、平日は、さすがに出来ないよね」
「でしょ~」
「じゃ~軽く一杯」
といった調子で、研究室で飲み会が始まってしまった。
「乾杯」
「一度、ここで、飲みたかったんです」
……という事は、先週、先々週、ここへ来ての飲み会は無かったようだ。
「何か、社員旅行で主任と抜け出して、ホテルへ行った時の事、思い出しますね」
「……あぁ」
そして、碧とも1時間くらい、他愛のない話をした。
「では、来週からも、よろしくおねがいします」と言って、碧は帰っていった。
そして、最後のサンプルを完成させて、私も退社した。
・・・・・・
家に着くと、明里が夕飯の支度をしていた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「大変ですね」
「明後日、社内デモを予定していて……」
「どうですか?」
「まあ、及第点は、もらえるかな」
「よかったー」
「明里は、学祭の準備の方は?」
「順調」
「プラネタリウム、作るって言ってたよね」
「そうなの、金属のボールの中に電球入れて、その金属に穴あけて……」
「ああ、ピンホール式プラネタリウム」
「そう、でも、実際これやろうとすると、100個や200個の穴じゃ、さまにならないの」
「ああ、3000個ぐらい。出来れば10000個ぐらい」
「で、不可能だと解った」
「諦めいいね~」
「それで、パソコン上で星図を映して、それをプロジェクターで投影する事にした」
「お~何とお手軽な」
「そのプロジェクターを天井に向けて投影させれば、プラネタリウム完成」
「なるほど」
「だったんだけど、電気科の部員に、プロジェクターを上に向けちゃ、ダメでしょうって言われて」
「ああ、ファンで冷やす為の空気の流れが、上を向けると変わるからね」
「やっぱりそうなんだぁ」
「メーカーとしては、本来の使い方と異なる使い方という事になるでしょう」
「それで、プロジェクターは水平に置いて、レンズの前に鏡を45°で固定して真上に投影するようにしました」
「なるほど」
「頭いいでしょ」
「どうかな~」
「ええ?」
「何時間ぐらい投影するの」
「9時から5時までだから、8時間ぐらい」
「一度、長時間、そのやり方で投影したらどうなるか、実験した方がいい」
「え~?」
・・・・・・
そして次の日、明里が私に報告した。
「おじさんの言ったとおり、レンズの前に鏡置いて長時間投影していたら、鏡のアルミ蒸着が熱でぐちゃぐちゃになっちゃった」
「やっぱり」
「鏡をプロジェクターから離せば、鏡が受ける熱は分散されるんだけど、プロジェクターから漏れた光を遮断する囲いに入らない」
「では、どうしたらいいでしょう」
「鏡面仕上げのステンレス板を使ってみる」
「ああ、それも実験してみるといい。熱くなると表面に酸化被膜が出来てしまうかもしれない。 まあ、そんなところまで、熱くならないか」
「わかった」
やはり、本番と同じ内容で動作確認しなければならないと改めて思った。
明里の学祭準備、生き生きしている。
無かった夏休みの代わりに、なるだろうか。
大変充実してるようだ。
明里にとって、本当に良かった。
私もデモに関して、目途が立ったお陰でまったりしている。
私の経験の中で、今回のケースは初めてである。
だいたい今頃は、会社に泊まり込んでいる。
やはり、碧の力が大きい。
いや、私のチームのみんなが素晴らしい。
まとまりが良く、議論も建設的で夢中になる。
そういう所に、ひらめきの神様は、降りて来る。
……そう勝手に結論付けた。
次回:(第10章 終話)デモンストレーション




