⑹ 折衝
会社に着くと、みんな早くから出社して実験していた。
最初にデモ準備班の進捗を確認した。
今回、碧の指示によって改造したプログラムは自由度が非常に高い。
作るべき造形物の画像データから、送るべき情報を自由に切り取り、
その情報にそって、ヘッドはαとβを噴射させる。
時間がかかるという問題を除けば、このシステムでのデモは可能だ。
しかし、私の想像が正しければ、会社はその先の展開を想定している。
その先を考えると、今のままでは十分ではない。
なんとか、根本的な解決をしたい。
次に、静電実験班の様子を見に行った。
リーダー君、綾乃さん、二人とも表情が浮かない。
やはり、そんなに簡単ではないのか。
現状を聞くと、電位差(電圧)を掛けると、目的のポイントに落ちないとの事だ。
電位差の値を下げて実験しているが、なかなかうまく行かない。
すると、碧が静電実験班を覗きに来て口を挟んだ。
「イオン化させたAヘッドのみでαを降らせて下さい」
リーダー君は、言われるまま、その操作を行った。
「次に、イオン化させないで、βを降らせて下さい」
リーダー君が、その操作を行った。
……なんと、いい感じだ。
綾乃がきいた。
「なんで?」
碧が答えた。
「αが乗っているポイントより、乗っていないポイントの方が静電誘導起こりやすいので、乗っていない部分にβが引き寄せられてしまうのでしょう」
リーダー君が言った。
「そうか! αが巻き上げられないようにαを帯電させて造形物に引っ付ける。βはαと結合する事で引っ付いてくれる。つまりβは帯電させる必要は無い」
私は言った。
「AヘッドとBヘッド、電気的に独立させて、Bヘッドには造形物との電位差を持たせない改造、出来るかな」
「メカの改造、やってみます」
碧が言った。
「Bヘッドを、造形物とショートさせる方が、簡単かもしれません」
リーダー君が言った。
「あ~やっぱり……ラスボスだぁ」
・・・・・・
碧のアイディアを元に、メカの改造、掛ける電圧の調整等を行った。
手ごたえがあったので、部長に9月21日のデモ延期を要請する事にした。
これからやる事は一杯ある。
3台のメカの内、もう1台、静電方式に改造する。
だいたいデモ本番になると、調子悪くなるのがお約束である。
その為に、もう1台用意する。
そして、デモ準備班がブラシュアップしたソフトウエアを、静電気班のシステムに組み込む。
その上で、更に調整する。
今までの経験から、デモの延期は簡単でない。
ただ、明里のおかげで延期願い、通るかもしれないと思った。
私は部長に時間を取ってもらい、部長室へ行った。
「失礼します」
「ああ、調子はどうだ」
「はい、その件で、ご相談させて頂きたく、お願いに参りました」
「……デモ日程の事かな?」
「はい、少し延期して頂きたく思います」
「何日ぐらいだ?」
ビンゴだ。何日ぐらいだ、等とこちらの申し出に普通は乗らない。
「はい、2週間ほど」
部長は、しばらく下を向いて考え始めた。
「今回のデモ、非常に重い意味を持つ事を以前話したが」
「はい、承知しております」
「やはり、話しておこうか。実は、今回のαとβを開発したチームが、新しいαの開発に目途がたった」
私は部長の話に割り込んだ。
「αy、αm、αc……イエロー、マゼンタ、シアン、ではないでしょうか?」
「……なんでその事を知っている……これは、まだ社内でも発表していない」
「私の勘です」(本当は明里の勘なのだが……)
「……そうか」
「ですので、今回のデモは、今、開発中の3Dプリンターの商品化ではなく、今後の展開をうらなう位置付けと理解しました」
「わかった。そこまで理解しているのなら、2週間の延期、なんとかしよう」
「申し訳ありません」
「2週間で、なんとかなるのか?」
「はい。もしかしたら、部長に大恥かかせてしまうかもしれませんが」
「ああ、それを聞いて安心した」
「ありがとうございます」
「延期するデモの日程、調整出来次第、連絡する」
「よろしくお願いします」
私は研究室に戻り、デモ日程を2週間、延期してもらう事を伝えた。
そして私はみんなに言った。
「みんなで、デモを成功させましょう!」
次回:至福のひと時




