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⑴ 過酷な生活の始まり

 明里の受験勉強が始まった。


 目標はM大レベル。受験科目は英数理(物理)。

 今は5月最後の週。入試まで残された時間は8ヵ月間。

 私は毎日仕事を終えて、帰宅後3時間、明里の勉強をみる事にした。


 明里の高校は、3年になると授業は2時半に終わる。

 そのあとは受験対策として、学校の受験講座を受ける者、予備校に通う者、生徒本人に任されている。

 明里にはそのまま帰宅させた。


 帰宅途中で夕飯の食材とショートケーキを購入し、帰宅するのは4時頃になる。

 それから私が帰宅するまで、1人で英語の勉強を行う。


【英語】

 本来、きちんと英文法を勉強しなければならないが、今からでは時間がない。

 そもそも語学というのは、その国に生まれれば3歳でしゃべれるようになる。

 たくさんの英語フレーズを覚えればなんとかなる。


 文系の場合、正しい意訳が求められるが、理系の場合は英文の科学専門書が読める事。

 つまり直訳出来ればなんとかなる。

 受験は数学と物理で勝負する。英語は足を引っ張らない程度まで持ち上げる。


 明里には、厳選英文の丸暗記を行わせた。

 厳選英文のCDをCDと一緒にすらすら音読出来る事。

 英文の意味は、まだ解らなくていい。

 ただCDと一緒に音読する。

 音読する事で英文のリズムを身に着ける。


 しかしネイティブ速度にはとても付いていけない。

 そこでCDの速度を0.7倍速で再生し、その速度で一緒に音読する。

 一緒に音読出来ない文には付箋紙を貼っていく。


 CDは約60分。0.7倍速で音読すると約90分。

 前半の45分が終わったら付箋紙が貼られた文の音読を繰り返す。

 スラスラ音読出来るようになったものから付箋紙をはがす。


 そして後半45分の音読を行い、付箋紙が貼られた文の音読を繰り返す。

 それを私が帰宅するまで行う。


・・・・・・


 私が帰宅するのはだいたい8時。

 20分で夕食の支度(明里が支度、私は入浴)20分で一緒に夕食。

 20分で片付け(私が片付け、明里は入浴)

 明里の入浴が済んだら洗濯開始(全自動洗濯機)

 そして9時から私と数学の勉強を行う。


・・・・・・


【数学】

 最初の10分、昨日の復習。

 その後90分かけて本日の勉強。


 最初は中学の数学から総復習。

 一通り終えたら高校数学を基礎中心に進める。

 高3までの基礎を8月一杯で終わらせる。


 教科書のページをめくりながら進めていては、とても間に合わない。

 私がその単元の意味と目的を口頭で説明し、明里はそれをイメージする。


 20分休憩(お茶とケーキによる糖分補給)


 11時から今日学んだ単元の復習。

 私の話しを聞いているだけでは十分な理解に届かない。

 そこで今度は明里が先生役となり、今日学んだ内容を生徒役の私に教える。


 私はそれに対して質問し、明里の不十分な理解を改める。

 学んだ事を教える行為は漠然とした理解から具体的な理解への近道。

 明里のイメージを確認、修正、補足、そして更にそのイメージを膨らませる。


 そして最後に演習問題を行う。


・・・・・・


【理科(物理)】

 理科の受験勉強は夏休みから始める。

 10月までの3カ月間で物理の内容を口頭で教える。

 理屈が解かれば、あとは数学力。

 数学が出来ればなんとかなる。

 夏休みまでは英語と数学に集中する。


・・・・・・


 11時45分終了。

 洗濯物を取り入れる(下着がある為、明里が担当)

 12時就寝。


・・・・・・


 6時起床。

 顔を洗って、7時まで厳選英文の音読。

 私は明里の音読を聞きながら、明里の進捗を確認する。

 また、その間に私が朝食の準備。

 その後20分で朝食を終え、身支度を済ませて私と明里は家を出る。


 明里と一緒に、この生活が始まった。


・・・・・・


 明里には、最初の1週間が一番つらいと伝えた。

 私の言葉を受けとめ、最初の1週間を乗り超える事に強く意識を向けた。

 しかし始めて5日目、このまま続ける自信がないと言ってきた。


 3日坊主という言葉がある。

 人間は生活リズムを大きく変えると精神と体に変調をきたす。

 防衛本能が働いて、3日以上続けられないように出来ている。


 しかしそれを乗り越えなければならない時、自分を騙さなければならない。

 苦しいのは最初の1週間と伝えた。

 それに対して5日間続けられた。上出来である。


「苦しいのは最初の1週間。あと2日だから、がんばろうよ」

「がんばりたいけど、頭がパンクしそう」


 問題は英語である。

 おこなっている英語の勉強は、言わばトレーニング。

 だから頭がパンクする事はない。

 言ってみればストレスである。


 しかし90分間の音読と付箋紙を貼った文の繰り返しの音読。

 並大抵の精神力では続かない。


「わかった。あと2日乗り越えたら、次の日曜日、遊びに行こう」

「えっ、本当」

 明里は身を乗り出した。


「いくいくいく、おじさんとデート」

「あと2日、がんばれそう?」


「なんか、急に鬱の気持ちが晴れてきたみたい」

「1週間続ければ、この生活にも慣れてくる」


「どこ行く? 渋谷かなー六本木もいいなーショッピングしてランチして、でもその前に着ていく服どうしよう。友達に会ったら何て言い訳しよう。そうだ、私ってわからないように変装すれば……」

「○○森林公園へ行こう」

「……何それ」

「ここから1時間半ぐらい」


 明里は拍子抜けしたようだ。

 まあ女子高生が遊びに行く所ではない。

 本来なら、お洒落な街でのショッピングや食事が定番だろう。


「明里は、自転車乗れる?」

「……乗れるけど」


「たまには、おじさんに付き合ってよ」

「……」


 明里は、しばらく下を向いていたが、顔を上げて言った。

「しょうがないなーこのJKが、おじさんに付き合ってあげる」


 明里は私に対して負い目を感じているようだ。

 それで『おじさんに付き合ってよ』という私の言葉が、明里にとっては嬉しかったようだ。


・・・・・・


 勢いに乗って最初の1週間を乗り越えた。

 その日の夜、明里は私のベッドに入ってきた。


「おじさんのお布団に入ってお話しするの、しばらくぶり。明日だね」

「ショッピングじゃなくて残念?」

「ネットで○○森林公園を調べた。ちょっと楽しそう」


「とても広い公園だよ。そこを自転車借りて走り回るんだ」

「天気が心配。今日雨だから、明日あがってくれるといいな」


「開園は9時30分だから、雨でなければ8時出発。少し早いけど生活リズム壊したくないから、いつもどおり6時起床」

「はいっ」

「それからゆっくり朝食をとって、準備して……準備っていっても何もないけどね」


 しばらく布団の中で話をした後、明里はベッドから降りた。

「おじさん、おやすみなさい。明日、楽しみだね」

「ああ、おやすみ」


 明里は自分の部屋へ帰って行った。

 布団には、明里のぬくもり……それと湯上り後のシャンプーと石鹸の匂いを残して。

 やれやれ……明里の無自覚さには困ったものである。


 ……いかん『私』の『私自身』が。

 これでは眠れないではないか。

 ……『私』と『私自身』は、別人格である。


・・・・・・


 次の日、目を覚ましてリビングへ向かうと、明里は朝食の準備を始めていた。

「おはよう」

「おはようございます」


 身支度を済ませ、明里と一緒に朝食を頂いた。

 その後、コーヒーを入れてくれた。

 こんなにゆっくりとした朝は、ひさしぶりである。


 昨日の雨はあがってる。

「行こう! おじさん!」


さあ、おじさん。

この先の8カ月間、受験勉強を軌道に乗せられるか!

今日の1日、重要ですよ!


次回:朝もやの中を

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