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⑵ 一度には

 次の日の日曜。

 起きてリビングに向かうと、明里は朝食の用意を済ませ、出かける準備をしていた。


「おじさん、おはようございます」

「ああ、どうした?」

「今日1日、好きにさせて下さい」

「ああ、かまわないけど」


「高校の友達と会う約束しました」

「ああ」

「必ず夜には帰ってきますので、心配しないで下さい」

「わかった」


「お昼と夕飯、ごめんなさい」

「いや、気にしないで」

「では、行ってきます」

「ああ、気を付けて」

 明里は振り向かずに出かけた。


 明里が用意してくれた朝食を食べていると、碧からメールが届いた。

『会えませんか』


 私は、社外で碧と2人で会う事は控えようと考えていたが、今回はそうも言ってられない。

 私はメールを返した。

『了解、待ち合わせの時間と場所を指定して下さい』


 少し間を置いて、碧からメールが届いた。

『最後にお会いした喫茶店で14時、いかがでしょう』

 ……あの喫茶店を指定してきた。


 私はメールを返した。

『了解しました』


 私は支度して、例の喫茶店に向かった。

 喫茶店に着いて中に入ると、前回と同じ場所に碧が座っている。

 そして前回と同じ装い。


「今日も、待たせてしまいました」

「いえ、今日も、お約束した時間前です」


 ウエイトレスさんが注文を取りにきた。

 私はブレンドコーヒーを注文し、碧も「同じものを」と言った。


 ここまでは前回と同じ。

 しかし、今日の碧は前回と違う。

 注文したコーヒーが運ばれてきた。

 コーヒーに口を付けながら沈黙が続く。


 碧が話し始めた。

「主任が同棲されている方って、昨日の女性ですよね」

「……なんでそう思う」

「なんとなく」


 そう、昨日の時点で、ごまかす事は考えていなかったが、ここで否定しなかった事で認めた事になる。

「何でですか?」

「ああ」

「姪御さんって紹介されましたが、本当はどういったご関係なのですか」

「1年前、家出していた女子高生。私が生活を支援している」


 碧は固まった。

 まあ、当然だろう。

 想定外のはずだ。


 私は、明里と最初に会った時の事と、明里の家庭事情を話した。

 そして明里に大学を受験させた事。

 受験勉強をみてあげた事。

 私にとって、明里が居てくれたお陰で、仕事の成果を出す事が出来た事……等を話した。


 碧は信じられない表情を向けた。

「いくら何でも……女子高生と……私は主任の同棲相手の方が、どのような方なのか、色々と想像していましたが、あまりにも……あまりにもかけ離れていて……」

「ですから、碧さんは私なんか整理して、他の人に目を向けて下さい」


「ふー」

 碧は深く息を吐いた。


 そして、私に訊いた。

「あの……この先、どのようになさるおつもりですか」

「明里が大学を卒業したら、結婚する」


「卒業するまでは、結婚されないのですか」

「明里はまだ学生だ。明里にとって、気の迷いかもしれない……本当に私と生涯を共に過ごせるのか……私より良い人が、この先現れるかもしれない」


「ふぅー」

 碧は再び息を吐いた。


「歳が離れていると、臆病になるのです」

「……それほど離れているとは、思えませんが」

 私は下を向いた。


 すると碧は、突然顔を上げて言った。

「という事は……私にも可能性、あるのですね!」

「えっ! いや、あの、碧さん?」


「私の博士論文、ご存じですか?」

「……いえ」

「可能性は無いって言われてたんです」


「……私は、1人の女性しか愛せない」

「それは『一度には』という事ですよね」


 碧はにっこりと笑い、喫茶店の注文書を取って「ごちそうさまでした」と言い、会計に向かった。

 私は失言を後悔し、うつむいたまま碧が店を出る扉の音を聞いた。


・・・・・・


 私は適当な弁当を買ってマンションに戻った。

 明里は、まだ帰っていない。

 弁当を食べた。


 時計を見ると午後6時。

 夜には帰って来ると明里は言って出かけた。

「夜って何時だぁ?」


 風呂を沸かし、風呂に入って風呂から出た。

 時計の針は7時を過ぎたところ。

「あー明里、早く帰ってこないかなあー」

 心の声が口に出てしまう。


 これはいかんと思い、缶ビールを開けた。

 1本飲み、2本飲み、3本めを開けようとした時、玄関扉の開く音がした。


「ただいま」

「おかえり……今日はどうだった?」

「はい。友達とカラオケ行って、ゲーセン行って、ボーリングに行って勝負した」

「……勝負?」


「諦めたら、そこで試合終了だって言われた」

「……そう」

「だから、絶対に諦めない!」


 明里の眼に、力が宿っているのを感じた。


ついに始まてしまうのか! 正妻戦争!


次回:何か思う所があるようで

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