⑶ おじさんの事、知りたいです
明里との生活を始めてから3日ほど経った日の夜、入浴を済ませて自分の部屋のベッドで横になっていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
声を掛けて扉を開けると、枕を抱いた明里が立っていた。
「あの……一緒に寝て……いい?」
「いや、だめだろう」
明里は枕をきつく抱いて下を向いて言った。
「あの……少しの間だけ……その後は帰るから……」
私はゆっくりと息を吐いた。
「……はい。どうぞ」
明里は恥ずかしそうな表情を浮かべて、私のベッドに入ってきた。
私のベッドはセミダブル。伸び伸びと寝れるように購入した。
おかげで2人で寝てもシングルほど狭苦しくはない。
だが、まさか女子高生と一緒に寝るとは思ってもいなかった。
沈黙が続いた。
しばらくすると、明里は天井を向いたまま私に話かけた。
「あの……JKが隣で寝ているのに、なんで何もしないの?」
私は答えなかった。
すると明里は私の方に体を起こして言った。
「もしかして……おじさんって、あっち系?」
「……あっち系が何を指しているか解りませんが、おそらく絶対違います!」
「おそらく絶対? へんな日本語」
「『おそらく』は何を指しているか解らない事に対して、その推測が当たっていると仮定した上での『絶対違う』です」
「なるほどです」
……やれやれ……あっち系とは。
「では何故ですか?」
「社会人が女子高生に手を出したら犯罪です。私は逮捕されてしまいます」
しばらく沈黙が続いた。
そして明里は再び話し始めた。
「私を相手にしないのは、胸がないから?」
「だからJKに手を出したら犯罪者になってしまうと話したばかりで」
「おじさん、もしかして、そっちの問題?」
「あっちとか、そっちとか、何を指しているか解りませんが、おそらく絶対違います!」
私はベッドから降りて部屋から出た。
そしてリビングのソファーに腰かけた。
……やれやれ、困ったお嬢さんだ。
実は明里の生徒手帳を見た時、明里の生年月日が記載されていた。
明里は高3だが、既に18歳になっている。よって児童淫行罪には抵触しない。
だが、このような事が学校に知れたら、退学処分を受けてしまうだろう。
ご両親が入れてくれた学校である。そのような処分を受ける事なく、きちんと卒業してほしい。
しばらくすると明里が私の部屋から出てきた。
「おじさん、ごめんなさい。私に用意して頂いた部屋で寝ます。おやすみなさい」
私は自分の部屋へ戻った。
……明里はここでの生活の対価として、こんな事をしたのだろうか……
それとも、明里は孤独なのだろうか……人恋しいのだろうか……
ベッドの中で、そんな事を考えながら、眠ってしまった。
・・・・・・
そして次の日も、明里は枕を抱いて私の部屋をノックした。
「昨日はごめんなさい」
「……いいえ」
「今日もまた、少しの間だけ、隣で寝ていいですか」
「……どうぞ」
明里は嬉しそうな表情を浮かべて私のベッドに入ってきた。
「おじさんの事、色々知りたいです。質問してもいいですか?」
「……その前に、明里は私をどのように見ているの?」
「すっごく優しくて、紳士的なおじさん」
「これだから、何も知らないお嬢さんは」
「……違うの?」
「明里はわかっていないようだが、私はすっごい『変態さん』です」
「うそっ?」
私に対して『あっち系?』とか『そっちの問題?』と言う明里に対して、私は自分を大きく見せた(笑)
明里は恥ずかしそうに下を向いている。
「……で、私の何が知りたいの?」
明里は慌てて質問を始めた。
「まずは、お名前を教えてください」
「ああ、まだ名乗っていなかったね」
「なかなか、教えて頂けないもので」
「ごめんごめん。野沢佳といいます」
「のざわ……さん」
「いや、おじさんでいいです。マンションで他の住人が聞いたら、姪という事になっているのに、苗字で呼ぶの、おかしいでしょ」
「……わかりました……次に……おじさん、おいくつですか?」
「現在29です」
「えっ、そうなんですか?」
「いくつに見えました?」
「いえ、すごく落ち着いて見えて」
「その、落ち着いて見えるおじさんが、変態おじさんです」
「ううっ……」
……やれやれ。
「では……女性とのお付き合いは?」
「2年前、結婚を約束した女性がいました」
「えっ!」
明里は飛び起きた。
「そんなに驚く事ですか?」
「いやー……別れたんですか?」
「まあ、色々あって」
「それは……おじさんが変態さんだったからですか?」
「それは……違うと思います」
「で、それからは?」
「それからは、1人です」
「……」
明里からの質問は、そこで終わった。
そして明里は、私のベッドから降りた。
「おじさん、ありがとう。私に用意して頂いた部屋へ戻ります」
「ああ、おやすみ」
「……おやすみなさい」
明里は、自分の部屋へ戻って行った。
私の布団に……明里の体温を残して。
今回のおじさん、変態おじさんと言うより、チキンおじさんでした (^^;
次回:(第1章 最終話)明里のこれから




