⑹ 大切な日
リーダー君のお陰で綾乃へのパワハラ疑惑の噂は収束した。
綾乃は、宴会で飲みすぎてしまって体調が悪かった。
しかし、誘って頂いている先輩方に対して申し訳ない気持ちだった。
そこに主任が通りかかったので、この後主任と約束がありますのでと言って誘ってくれた先輩方に謝罪した。
といった事を噂している人に説明した。
また、2週間後、水瀬女史が出社すれば彼女によってはっきりする。という事も付け加えてくれた。
ただ1つ心配な事がある。
再来週の月曜日、碧は本当に出社してくれるだろうか?
このまま退職という事もある。そうなると……
時計を見ると9時を回っていた。
いかん、明里にメールする事を忘れていた。
帰宅が遅くなる場合はメールする約束だった。
私は謝罪と先に夕食を取るようメールして帰路についた。
私がマンションに着いた時、私の腕時計は10時を回っていた。
遅くなってしまった。
玄関を開けると部屋は真っ暗だった。
あれ? まだ寝る時間でもないし、明里はどこかへ出かけているのだろうか?
照明を付けようとスイッチに手を伸ばした時『カチッ』
リビングの方でライターの音と炎の光を感じた。
その光はロウソクの炎のようにゆらゆらと揺れている。
薄暗い中、その光をたよりに私はリビングへ向かった。
明里はリビングテーブルの後ろで両手を胸にライターを持って立っている。
テーブルの真ん中に小さな丸いケーキ。
その上に1本のロウソクが立てられ、その炎のみがこの部屋を照らしている。
ケーキのまわりには夕食の準備がされていた。
「おじさん、お疲れ様です」
明里は優しい笑顔で声を掛けてくれた。
「ああ、先に夕食を取るようメール送ったんだが」
「はい、ちょっと心配になって、私からメールしようとした時、丁度メールが届きました」
「すまない。すっかり失念してしまった……で、これは何のサプライズだろう?」
「今日は、5月20日です」
「んー何だろう? ロウソクが1本……」
「……」
「……そうか!」
「はい。私にとりまして、誕生日よりも大切な日です」
「そーかー……あれから1年経つのかー」
「はい。私はこの日、初めておじさんとお会いしました」
「そーだねー」
「この1年間、本当にありがとうございました」
「いーえ、こちらこそ、ありがとう」
明里は眼を潤ませている。
ロウソクの光で明里の瞳がキラキラしていた。
ロウソクの光に包まれながら、2人で少し遅い夕食を行い、コーヒーとケーキを頂いた。
その日、明里は枕を抱いて私のベッドに来てくれた。
私は明里を抱き寄せながら、これ以上の事って何だろう……等と考えていた。
会社での私の評価……なんかもう、どうでもいい。
ただこうして、明里と生活出来れば。
私をそんな気持ちにさせてくれる。
明里はそんな子のようだ。
おじさん、明里さん、一周年おめでとう。
これからも、仲良くね!
次回:おかえり!




