⑵ まあ、こんなもんだろう
私はリビングのテーブルで、買ってきた弁当を2つに分け、冷蔵庫にあった食材を付け足した。
コーヒーカップは1つしかない為、ガラスのコップにミルクを入れて温めた。
明里は入浴を済ませ、私が貸したトレーナーを着てバスルームから出てきた。
「おなかすいてるでしょう、どうぞ」
「すみません。ありがとうございます」
「明日から、ここから学校へ通う事になるのかな」
「ご迷惑をお掛けします」
「あれ? 学校の教科書なんかは?」
「教室のロッカーに入れてあります」
「そう。必要な物は、明里に提供した部屋へ持ってきていいから」
「ありがとうございます」
「私が帰宅するのは8時頃だから、それまでテレビ見るなり勉強するなり、自由に過ごしなさい。勉強机は用意出来ないから、このテーブルを使うように。それと、私にも社会的立場というのがあるから、この事はご内密に。マンションで他の住人に会ったら、私の姪という事にしておいて」
「わかりました」
その日、ささやかな夕食を済ませ、12時をまわった頃、解散した。
・・・・・・
次の朝、起きてリビングに向かうと明里も部屋から出てきた。
「おはようございます。おじさん」
「ああ、おはよう。昨日は寝れた?」
「……ちょっと……寝れませんでした」
「枕、合わなかった?」
「いえ……おじさん来ると思って」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
「朝食、トーストとコーヒーだけど、我慢してね」
「いえ、ありがとうございます」
私は朝食を済ませ、出勤の支度をした。
「私はもう出るから、玄関のカギよろしく」
私は明里を残して会社へ向かった。
・・・・・・
その日、帰宅すると部屋は真っ暗だった。
テーブルの上に用意したお金は、なくなっている。
まあ、こんなもんだろう。ある意味、面倒事から解放された事に、ほっとしていた。
その一方で、いつものリビングが広く感じられた。
「あれ?」
炊飯器の保温ランプが付いている。開けると炊き立てのご飯が入っていた。
その時、玄関で『ガチャ』というカギが開く音がした。
「ごめんなさい。7時までに帰って夕食の支度をしようと思ってたのに、勝手がつかめなくて遅くなっちゃいました」
「夕食?」
「おじさん、夕食これからでしょう」
「何作るの?」
「カレーライス。その為の食材買ってきました」
「……大丈夫?」
「大丈夫。用意していただいたお金で、食材と私の着替え、パジャマ、エプロンを買ってきました」
明里は、買ってきたエプロンを付けてキッチンに向かった。
女子高の制服にエプロン姿、それだけで反則である。
明里は馴れた手つきでニンジン、じゃがいもの皮をむいている。
夕食が出来上がったのは9時を回った頃だった。
テーブルに夕食が並べられ、明里と向かい合わせに座った。
「「いただきます」」
2人で食事前のあいさつを行い、食事を始めた。
……ちょっと変わった味だ。
「隠し味にココアが入ってます」
「なるほど」
……悪くない。これが今どきの女子高生の料理か。
夕食を終え、明里は食器を洗浄機に入れて、手際よくキッチンを片付けた。
「お疲れ様。おいしかったです。私はネットで調べものがあるから、先に入浴して」
「……すみません」
明里は頭を下げて、バスルームに向かった。
私は、これから必要になりそうなものをネットで調べ、購入した。
しばらくすると明里がバスルームから出てきた。
今日買ったと思えるパジャマを着ている。
色は薄い緑、何の模様もない少し大きめのパジャマ。
「お風呂、頂きました」
「はい。ではおやすみなさい」
「……おやすみなさい」
明里は軽く会釈して自分の部屋へ入っていった。
私も入浴を済ませ、自分の部屋のベッドに入った。
・・・・・・
朝起きるとリビングの方から音がする。
リビングに向かうと明里が朝食の準備をしてくれていた。
「おはようございます」
私を見るなり挨拶してくれた。
「ああ、おはよう」
「野菜トーストサンド、作ってみました。おじさん苦手な物、ありますか?」
「いや、特に好き嫌いはない。ありがとう」
私は朝の身支度を済ませ、テーブルに着いた。
テーブルに降りそそぐ日差しが心地よい。
キッチンに広がるトーストの香りとコーヒーの香り。
いつもの朝食と変わりないのだが。
・・・・・・
仕事を終えて帰宅すると、明里が玄関まで出迎えてくれた。
夕食の支度を終えて私を待っていてくれたようだ。
明里と向かい合わせてテーブルに着く。
「「いただきます」」と言って夕食を頂く。
一人で生活していると、食事前の挨拶すら、おろそかになってしまう。
明里と一緒に食事をする。
こんな生活も……良いものだ。
次回:おじさんの事、知りたいです




