⑴ そんな大事なことを
4月になった。
明里は明後日、大学の入学式を迎える。
私の会社は今日から新年度という事で、事業計画や新入社員の挨拶等が行われた。
私の所属している第3研の開発部に、4人の新入社員が配属された。
4人とも院卒で、その中の1人は女性だった。
そして私は、何故か主任に昇進した。
主任になると最初に3人から5人の部下が配属されるのだが、私のような冴えない男の下に配属される事は、誰も望んでいないだろう。
新入社員の配属先は来月発表との事だ。
また、私の部から5人が他の部所へ異動命令が出た。
本人の希望、他の部所からの誘い、上長の判断等、色々である。
異動の辞令が出た者は今月中に引継ぎ作業を行うようにとの事だ。
私の会社の研究所は、第1研から第3研まであり、私が所属している第3研は一番格下と見られている。
よって第3研からの異動先は、研究開発でなくなる事がほとんどである。
定時退社後、社内のイベント会場で新人歓迎会が行われた。
私は参加費を払い、最初の乾杯だけ付き合った後、目立たないように途中で抜け出した。
明里には新人歓迎会で少し遅くなる事をメールで伝えてある。
私が自宅マンションに着いたのは8時頃だった。
「おかえりなさい」
明里が玄関まで出迎えてくれた。
「ただいま」
「早かったのね……食事は?」
「いや、途中で抜け出してきたから……何か冷蔵庫に、ないかなぁ?」
「えー言ってくれれば……てっきり済ませてくると思って、私は夕食済ませちゃったし……冷凍にしたご飯とー」
「ああ、今日辞令で、何故か主任に昇進しました」
「えっ!」
「明里のお陰だなー」
「どうしてそんな大事なことを……」
「いゃあ~ 同期では一番遅いし」
「おじさん、お風呂沸いてるの、先に入っちゃって」
「えっ」
私は強引にバスルームへ押し込まれた。
私はゆっくり湯舟につかり、風呂から出ると夕食の準備が整っていた。
オムライス、サラダ、コーンスープ。そしてショートケーキが2つ。
オムライスにはケチャップで『祝』の文字とその周りを囲むハートマーク。
「どうしたの」
「急いでケーキ買ってきました」
私をバスルームに入れた後、冷凍ご飯をレンジにかけて飛び出して買いに行ったのだろう。
「オムライス、どぉですか?」
「おいしい。明里もひと口、あーん」
明里は口を開けた。
私はスプーンに乗せたひと口のオムライスを明里の口に運んだ。
明里が口を閉じた。
閉じた口からスプーンを抜いた。
明里は頬を染めて両手でパタパタと自分の顔を扇いでいる。
私が食べ終わるタイミングに合わせてコーヒーを入れてくれた。
そして明里と一緒にケーキを頂いた。
「おじさんおめでとう」
「ケーキ買ってきてくれたんだ、ありがとう。お祝いだから?」
「遅い時間だったからケーキ屋さんは閉まっていたのでスーパーで2個パックのケーキを買って来ました」
「この2個パックのケーキ、おいしいよね」
「うん、受験勉強でおじさんと一緒に食べてたの」
「……そーだねー」
次回:明里を起こさないように




