⑹ この部屋は真っ暗で
受験が終わり、合格発表を終えて、高校の卒業式まで2週間ある。
明里は受験した大学の結果を報告する為、高校へ行った。
そこで友達と会い、お互い合格した事で、抱き合って喜んだとの事。
「友達は明後日から、オーストラリアへ卒業旅行に行くって」
……なんだろう、今の最後、言い淀んだ感じを受けた。
「明里は誘われなかったの?」
「……誘われたけど」
「誘われたけど?」
「ちょっと予定があるって言って……」
「明里、私はあまり干渉してはいけないと思っているが……予定って何?」
「……」
「高校の友達との卒業旅行って二度と無いよ」
「……」
「金銭的な問題で断ったんでしょう」
「……」
「パスポートは、持ってる?」
「……高2の時、修学旅行でヨーロッパへ行った時に……」
「では、今からでも参加出来ないか、確認して。それといくら必要か、至急調べて!」
明里は自分の部屋へ入って友達に電話した。
しばらくして明里が戻ってきた。
明里も参加出来るならという事で、若干予定を変更してくれたらしい。
概算としての旅行費用を教えてもらい、多めに渡した。
今後は明里にクレジットカードを作らなければならないと思った。
次の日、明里は友達と一緒に旅行の手続き、打ち合わせ、そして旅行に必要な買い物に行った。
明里にとって、慌ただしい1日だった。
そして明里は今週一杯、卒業旅行。
私は久しぶりに1人生活。
仕事を終えて帰宅する。
玄関の扉を開けると、その先に真っ暗な部屋……そうだった。
・・・・・・
そして今日、明里が卒業旅行から帰ってくる。
帰宅するのは午後9時頃との事。
私は日本食のお弁当を2つ買って帰宅したのは8時半だった。
お風呂に湯を張ってリビングテーブルを拭いて、キッチンのゴミをまとめていたところで玄関の開く音がした。
「ただいまー」
もふもふのジャケットを着て、両手一杯、荷物を持った明里が帰ってきた。
「おかえりーおーずいぶん焼けたね」
「南半球は夏だから……成田に着いたら寒い寒い」
「食事は?」
「機内食たべたけど、日本食が恋しくて」
「そう言うと思って、ほら」
私は買ってきた日本食弁当を明里に見せた。
「うれしー」
明里は私に抱き付いてきた。
「おじさん、私が居ない間、寂しくなかった?」
「いやあひさしぶりに、のびのびとした独身生活を……」
「私は寂しかったよー」
明里は言葉をかぶせてきた。
「……ごめん。私も寂しかった」
私も明里の後ろに手を回して明里を包んだ。
それから私はテーブルの上にお弁当を広げ、明里は上着を脱いで熱いお茶を入れてくれた。
一緒にお弁当を食べながら色々な話を聞かせてもらった。
メンバーは女子4人。同じクラスの娘。
サンゴ礁の海で海水浴していると、やたら現地の人が声を掛けてくる。
明里はワイシャツの上のボタンを外して肩を見せた。
「ほら、こんなに焼けちゃった」
薄い小麦色の肌と日焼けしてない肩紐跡の白い肌。
そしてその下の白い肌のふくらみ。
私はあわてて目をそらした。
今の明里、ブラしてない。
「あっれーおじさん、ドキドキしてくれてます?」
「わっ……わしを追い詰めるでない!」
明里は頬を染め、テーブルの上でうずくまり、声を抑えて笑っている。
何事もなく、元気に帰ってきてくれて、良かった。
・・・・・・
入浴を済ませ、ベッドに入ると、明里が枕を抱いて私の部屋をノックした。
「来たか」
「来ましたー」
「寒くない?」
「おじさんと添い寝するの、しばらくぶり」
「そうだね」
「私が旅行の間、女の人、連れ込まなかった?」
「そんな事考えてたの?」
「旅行先で怖い夢見た」
「夢?」
「おじさんが女の人と、この部屋から出ていってしまう夢」
「ほう」
「私がここへ帰ってきたら、この部屋は真っ暗で、全て無くなっていて……私、日本へ帰るって言ったら、どうしたのって友達に聞かれて、おじさんの事も、この部屋の事も話せなくて……おじさんは、私に無断で出て行ったりしないって、自分に言い聞かせて……」
……明里は、過去に何かあったのだろうか?
私は明里の手を握りしめて言った。
「私はここにいるよ」
しばらくして明里はベッドから降りた。
「おじさんお休みなさい」
「はい。お休み」
明里は自分の部屋へ戻って行った。
やれやれ、明里には困ったものだ……再び眠れない夜が……始まりそうだ。
・・・・・・
そして今日、明里は高校の卒業式を迎えた。
式を終えた後、実家の母と義父に、高校卒業を報告しに行くと言っていた。
私は仕事を終えて帰宅すると、明里は高校の制服を着たまま玄関まで出迎えてくれた。
そして明里は床に正座して手を付いて頭を下げた。
「おじさんのおかげで大学に入る事が出来ました。こんなに嬉しい気持ちで卒業式を迎えられたのは全ておじさんのおかげです。本当にありがとうございます」
私もあわてて床に正座した。そして明里の目の高さに合わせて言った。
「はい。卒業おめでとう……ああ今日はここでゆっくりと食事しよう」
「はい」
明里は夕食の準備を整えていた。
食事をしながら明里が話しをしてくれた。
「今日、実家へ卒業した事を報告しに行ったら、お母さんもお義父さんも、とても喜んでくれました」
「それは良かった」
「お母さん、今のお義父さんと、幸せそうでした」
「それは良かった」
「今思い返すと、あの日、おじさんと出会ってなければ、私どうなっていたんだろう」
「怖いもの知らずだったよね」
「本当は、怖くて怖くて死にそうでした」
「……私が?」
「……これからの事が」
「……そうでしたか」
「おじさん、私の前から、いなくなったり、しないよね」
「いゃあ、明里が私の前からいなくなると思っている」
「そんな事、絶対にない!」
「……うん……昔そう言ってくれた人が、いた」
「……おじさん?」
私は話題を変えようと明里に提案した。
「無事、卒業式を終えたという事で、お祝いに明日、どこかで夕食でもしようか?」
「うれしー待ち合わせは? 何処? 何時?」
「じゃあサ○シャインの展望ラウンジでいいかな」
「すごーい」
「予約出来るかな?」
私は早速電話で予約した。
「明日20時、私の名前で予約した。私は仕事終わってから向かうから、少し遅れてしまうかもしれない。先にお店に入ってて」
「了解です」
私は、明日の予定を打ち合わせて、明里と解散した。
次回:(第2章 最終話)私のしている事




