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第三話 side ギルバート

『ねえ、聞いた?』

『ギルバート様でしょ? 心底ガッカリしたっていうか』


 女たちが密やかに話す。

 別に聞き耳を立てたくて聴いてるわけじゃない。


 女は上辺だけしか見ない。

 今回だって女中の誰かが盛ったとしか考えつかない。

 多分俺の事が嫌いなアイツぐらいしか検討つかないが間違ってはいないだろう。


 ーー女は嫌いだ。見てくれの良し悪しでしか世界を見ない。


 今回の試合で女性への態度を改めるんだと審判を引き受けた男が意地悪く言ってきた。

 まるで試合放棄したのはヴァイス軍師を恐れたからだと聞こえるが俺はヴァイス軍師とは試合の時初めて会ったぐらいだ。


 お前に俺の何が分かるというんだ。


 ただあの試合のおかげで馬鹿みたいにいた女たちが消え去り、それは良かった良かったと清清していた。


 二階の窓から俺を負かしたヴァイス軍師を見る。


 王国の情報携えたフリーの傭兵だったという事以外何も分からない怪しさ極まりない男に俺は負かされたのかと内心憤った。


 だが待てよ。俺の周りから女が消えたのはヴァイス軍師のおかげである事は間違いない。


 少しくらいなら言う事を聞いても、という所で振り返ったヴァイス軍師と目が合う。

 そう言えば初めて負けを知ったのもヴァイス軍師な気がする。


 あの試合の時とは打って変わりにこやかな笑顔で手を振る。


 ドッドッドッ


 何故だか心音が早くなる。

 鼓動が耳から離れない。

 まさか、馬鹿な俺が。


 その場を立ち去る。

 考えてはいけないような、突き詰めてはいけない感情がそこにはあった。


 それからというも『挑戦』という形で女性への接触を図る。おかしい。あの一件以来女性からの目が冷たく感じられ恐れるようになった。


 そして俺の周りでは確かに女性が減ったはずだった。


『あ、ユカリちゃん!』


『すいませんこれを片付けたらそちらも手伝います!』


『もう・・・良いって言ってるのに』


『いえ仕事ですから』


 新しく入った物好きな新人。

 名前は覚えてないがよく目が合い、そこには嫌悪も恐れも無かった。


 もしかしたら彼女にならば。

 このヴァイス軍師への間違った感情も正しく導いてくれるかもしれないと日が経つに連れ目が合うにつれ、視線で追いかけるうちに思った。


 だが彼女が仕事する時間は決まって遅くからだった。

 普段は何処に居て何をしているやら。


『ねえ、ユカリちゃんってさ』


『はい?』


『ここくるまでに何処にいつもいるの?』


 ナイス! 女中はサボりを疑ってるみたいだが。


『訓練所・・・いえ、忘れて下さい』


 訓練所・・・確かにそう口で言っていた。

 この時間まで訓練所で訓練しているのはヴァイス軍師だけである。


 まさか。


 彼女は草葉の陰からヴァイス軍師を見守り恋をしているというのか!?


 衝撃につい目眩がした。


 それを額を抑えて無理もないと感じた。


 ヴァイス軍師はイケメンなオッさんだからな!


 あの背格好は羨ましいくらいだし渋い言動は最高にクール。

 理想の男だ、落ち着いているのも良い。


 だがヴァイス軍師に対し間違った感情を抱いてしまっている自分が彼女の恋心を邪魔していいものかと考えた。


 ? 待てよ。


 俺が好きな人と好きになれるかもしれない人をくっつけたら万事上手くいくのでは?


 そう考え、あの目がよく合う女中を探し回った。


 やっと見つけた時にはヨシュアに肩を回されていた時だった。


『君、薔薇を切るより割の良い仕事をしないかい?』


 ふつふつと言い知れぬ怒りが内側から湧いてきていた。

 ヨシュアを親友だと思っている。

 ヨシュアが俺目当ての女たちを一手に引き受けてくれた恩義はある。だが、その女だけは駄目だ。


「おい」


 思わず口にしていた。

 怒っていたのかもしれない。

 ヨシュアが眉を顰めていたからだ。それでも構わないほど頭にきていたのだろう。


「ったく、誰かと思えばギルじゃないか」


 まだ愛称で呼んでいてくれるとは。しみじみと嬉しく思う。

 同時に微かな友情さえ尊いと身に染みていたが怒りは冷め切らぬままだった。


「呼ばれていたぞ・・・ヨシュア」


 誰にとは言わなかった。

 口から出まかせで出た言葉だが彼なら俺より必要とされているのだから嘘はついていないつもりである。


 ヨシュアが邪魔された事に良い思いを抱いてはいないまま立ち去ると辺りはシーンッと静まり返る。


 ドッドッドッ


 やけに鼓動が、それにしては煩い。


 一向に此方を見ず手を止めたまま静止している女中に、初めて声をかけた。


「・・・おい」


「・・・はい、なんでしょう」


 伏目がちな目がより一層際立たせた。

 線の細さ、華奢な体躯、憂いを帯びた表情。


 何かに心臓をぎゅんっと鷲掴みにされた衝動を感じた。

 なんだ、これは一体なんなんだ。


「・・・っ! いや、用ってほどじゃないんだがすまない・・・」


 思わず謝罪してしまった。他の萎縮してしまうような女の態度とは違い、照れ隠しで。

 他の女とは向ける視線が違う事は最初から分かっていた。だから動揺してしまったのだろう。


 女中の大きな瞳が見開かれる。

 思わず見ていて飽きないと感じた。


「・・・どうした?」


「いえ、随分とお変わりになられたなと思いまして」


 ・・・俺の変化が分かるくらいには俺のことを見ていたって事?


 自分の変化に今更ながら気づいた。

 たしかにヴァイス軍師との一件以来、俺は変わった。

 煩わしく思っていた女たちから冷たい蔑まれた目を向けられる事もなかったはすだし。

 何より女性は怖いと感じるようになって。


 ヴァイス軍師に憧れを抱く事もなかった筈だし。


 微かながらヴァイス軍師に憧れというワードで耳が熱くなる。


「! あ、ああ。ある人に教えられてな」


 ああ、俺はとうとう認めざるおえないところまできてしまったかと感じてしまった。


 ヴァイス軍師、大好きです。

 男としてマジでガチな方向に。

 好きです。大好きです。


 自分を前に軽蔑も蔑みも冷たい目すら向けなかった女中に対し視線で追いかけるほどだったのに今やヴァイス軍師一択の自分に驚くほどストンと感情は落ちていた。


「それって」


「ああ、来たばかりだというのにあっという間に軍師になられたヴァイス様だ」


 正直、もっともっとヴァイス軍師の事が知りたい。

 ってか抱かれたい。ヤバい、抱かれたいってなんだ。ヤバいぞ・・・俺は・・・本格的にきてしまっているらしい。


「ヴァイス様は真面目な人だ、いつも必ず訓練の指導をし自身の部隊の一人一人に声をかけて目と目を合わせて話す。本人は謙遜な態度だが軍内では一番強いんじゃないかって思ってる、そして」


 思わず口を出てしまった。

 ヤバい、本当にヤバいって俺・・・!

 止まりそうにない口を慌てて割って入る女中。


「わあーっ! わ、分かりました! 分かりましたからそこで止まって下さい!」


 何故だか話し足りない気分になったが彼女が言うなら抑えよう。

 彼女になら負けても許してしまう。

 そんな感情が心の隅にあった。


「あ、アナタがそのヴァイス様に尊敬してるのは分かりましたから!」


 尊敬?


「尊敬?」


 尊敬は、違うくはないがこれはもっと。


「え」


「寧ろ崇拝の域だが」


 誤魔化すように言ったが間違いでもない。

 俺はヴァイス軍師に本気で惚れたらしい。


「君、見てたんだろ」


 恋敵ではあるが応援しよう。

 俺より勝算はずっとある。


 青くなる彼女の顔を見て確信した。


「ヴァイス様」


 やはり彼女はあたふたと混乱していたが同じ人に恋する者同士として微笑ましく見守ってしまう。

 ぐっ・・・やっと分かった! これが恋する女の子は可愛いってやつか・・・!


「ここの所君を見かける事が多くなってな、やっと確信が付いた」


「え」


「君、ヴァイス様が好きなんだろ?」


 正しくは君もだがな。


 彼女の顔は赤くなったり青くなったりで面白い具合にコロコロと変わっていった。

 

 


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