第一章6 「焔」
拡散された炎から顕現したのは、フェニックスを彷彿とさせるものだった。
そのフェニックスは蓮の体を覆い隠せる程、とても大きいサイズをしていた。
「……これが、俺の化身……炎の鳥、フェニックス……!」
「へぇ、紫苑と同じか……」
近くにいた蓮にも聞こえない程の声で一之瀬 潤は呟く。
蓮の後ろにいた一之瀬 潤は蓮の隣に行く。
「蓮くん、化身を出せた喜びの感情で埋めつくされてるだろうけど、まずは自分の化身に名前をつけなきゃいけないんだ。名前は決めてたりする?」
「……そうですね……フェニックス、炎から連想して――焔。焔にしようと思います」
名前を貰い、それに答えるように焔は蓮の前に立つ。目の前にいる強盗犯と戦うつもりだ。
(あれ? 頭の中に文字が浮かんでくる)
「蓮くん、化身にはそれぞれ能力が備わっているんだ。焔の能力は分かる? そろそろ頭に文字が浮かんでくるはずだよ」
初めての化身に色々戸惑うこともある蓮に一之瀬 潤はさりげなく聞き、フォローしていた。
「あ、もしかして今浮かんでいる言葉が、焔の能力ってことですか?」
「うん、恐らくね。……さて、助言はここまで。後は蓮くんと焔、二人だけで戦ってみて。僕は遠くから見ているから。大丈夫、ちゃんと焔に指示をすれば、焔は蓮くんの指示通りに動いてくれるよ」
隣にいた一之瀬 潤は後ろに移動し、蓮と焔、両方が見える位置に移動する。
(よし、ここからは俺と焔で戦う。焔の能力は……炎光操作、もう二つは……いまいちどういった能力なのか分からない)
炎光操作。名前の通り炎と光を操る能力だろう。後の二つの能力は蓮自身どういったことができる能力なのか分かっていない。だから蓮は炎光操作、この能力だけで戦わなくてはならない。
「だったらまずは……焔! 相手の化身を光で拘束だ! 技名は安直だけど、――シャイニングクロージャ!」
蓮の言葉に反応し、焔は翼を広げ、光り輝いた異空間の穴とも言える場所を翼の周りに作り、その穴から多数の光線を発射。その光線は強盗犯の化身を捕えるように囲み、檻のように形成し逃がさない。
「まずは拘束か。だったら! サスケ、天撃!」
強盗犯の化身、サスケは光の檻を前に刀を持ち、居合の構えをする。そして懐にある刀は黄色い膜に覆われていた。
サスケが刀を振る。すると瞬く間に光の檻は真っ二つになり、光の檻は消滅する。
「こんなあっさり壊されちゃうとは……」
蓮の動揺した感情も相手は見逃さなかった。化身に命令をし、サスケは焔との間合いを詰めようと動き出していた。
「もう攻めて……っ、焔、上空に避難するんだ!」
間合いを詰めようとこちらに攻めてきていたサスケを焔は翼を広げ、上空に避難する。
「ちっ! 空に逃げるなんて卑怯だな……」
「こっちは元々ある焔の力を活用してるだけだ。卑怯じゃない! 焔、拘束が効かないならそのまま攻撃だ! この空間に光の雨を! インフィニットライトスコール!」
焔はくちばしから光弾を上空から更にまた上に放つ。その光弾は弾け、無数の光線が上空から降り注ぐ。
「くっ……無数の光線……サスケ、避けろ!」
サスケは刀と斬撃を上手く使い、無数の光線に対して多少のダメージを喰らうが、なんとか避けていた。
(今相手は焔が放った光線を避けるのに手一杯。今ここに焔がいたら不意打ちができるのに……)
蓮はそう考えていた。今相手はこの無数の光線の雨の対処で手一杯。今意識が向いているのは焔ではなく、光線。焔に意識が向いていない今なら不意打ちを決め、蓮と焔が勝てるのではないかと考えている。
だけど焔は蓮の指示通り上空にいる。今焔を呼べば、不意打ちをしようとしているのが相手にばれてしまう。――そんなときだった、バサッという音と共に、蓮の後ろにいたのは――焔だった。
「えっ、焔、なんでここに? さっきまで上空にいたはずじゃ……」
もう一回先ほど焔がいた空を確認するが、そこには誰もいない。
「もしかして、俺の思いが通じた……? いや、そんなことは後でいい。焔がここにいる。それなら今不意打ちでとどめをさす!」
焔が放った『インフィニットライトスコール』の効果時間はもうすぐ切れる。切れたとき、やっと終わったと安堵したそのとき、不意打ちの攻撃をしかける。幸い強盗犯は自分の化身と『インフィニットライトスコール』に夢中だ。蓮と焔のことは微塵も見ていない。
「よし焔、効果時間が切れたと同時に、残ってる力全て使った技を相手の化身にぶっ放す。俺が合図する。だからそれに合わせて」
強盗犯、サスケの方は未だ続く光線の雨に手一杯だった。
(くそ、俺もサスケもこの技のせいで余裕がねぇ。俺もこの状況を見てサスケに指示しないといけないから一分たりとも目が離せない!)
強盗犯は無数の光線を見て、サスケに指示をしていた。これじゃあ蓮と焔なんて見る余裕がない。
――そして、強盗犯が待ち望んだ『インフィニットライトスコール』の効果時間が切れる。
無数の光線の雨はやむ。強盗犯が安堵したそのとき、目を向けた蓮と焔の方向を見る。見えたのは、次の攻撃準備をしている焔だった。しかもよく見ると、次の技の発動準備は済ませているようにも見える。
「今だ、焔!」
「次から次へと……!」
「今度は拘束でも、足止めでもなんでもない! 煉獄天閃砲!」
焔は前方に大きい炎弾を展開していた。蓮の合図と共に、その炎弾は縮み、ボールサイズくらいの大きさに。そしてその炎弾は形を変え、サスケに向かって一直線に攻撃する光線と化した。
当然予想外だった強盗犯はサスケへの指示が間に合わず、そのままサスケはその技の餌食に。だけど元々、さっきの『インフィニットライトスコール』でダメージを負っていたサスケは、仮に指示が間に合ったとしても避けていたかは分からない。
『煉獄天閃砲』を防御を取らず、まともに受けたサスケは跡形も残っていなかった。いや、正確に言えば焔の技を喰らい、サスケはその攻撃に耐えきれず突破され、消えた。
「やっ、た……。相手の化身は焔の攻撃を受けて、倒れた。それで、いいんだよな?」
蓮は額から汗をかき、すごく疲弊していた。体から力が抜けていくような感覚だった。体力を限界まで使ったような疲労感に見舞われていた。
「いやぁ、見事見事」
蓮の後ろから拍手をしながら、こちらに近づいてくる一之瀬 潤の姿があった。
「一之瀬さん」
「相手の化身は焔の攻撃を受けて倒れた、だから消えたんだ。蓮くんと焔の勝ちだ」
「……やった……」
そう呟き、蓮は足の力が抜けたのか、地面に倒れそうになる。
「おっと」
倒れそうになる蓮を一之瀬 潤は受け止め、自分の方へ引き寄せる。
「すいません、なんか、力が抜けて……」
「いやいや、初めて化身を使えば皆起こる反応だから大丈夫。それはともかく……」
一之瀬 潤の視線は自分の化身が消え、棒立ちになっていた強盗犯へ向ける。
「さて、君はもう蓮くんと焔に負けて、もう何も手段がない。君が行ったことは立派な犯罪だ。防衛軍に連絡させてもらうよ」
「くっ……」
強盗犯は宝石などを入れている袋を持ち、そのままこの場から逃走しようと試みた。
だけど化身がいない化身使いはただの人。何も抵抗できないただの人だ。
「逃がすと思う? ――身権解放」
逃走を試みる強盗犯に向かって一之瀬 潤はそう言葉を発した。
すると、肩にずっと乗っていた一之瀬 潤の化身、紫苑の体が変化する。小さく肩に乗っていた紫苑は、体は大きく肥大し、焔と同じサイズの鳥になった。見た目は焔の紫バージョンといった所だった。
体は焔と同じサイズになった紫苑は強盗犯の前に立ちはだかり、その大きな体で逃走ルートを閉鎖した。
「はい、これで逃げられない。君は大人しくここで防衛軍の到着を待つことだね。一歩でも逃げようとすれば、紫苑の炎で君の体は黒焦げだ。この意味、分かるでしょ?」
これは脅しだ。今、強盗犯は逃げるという意思を見せれば自分の体は黒焦げ。つまり、今一之瀬 潤は強盗犯より優位にいる、だから脅せる。強盗犯は大人しく防衛軍の到着を待つしかない。逃げようとすれば死ぬ可能性が大なのだから。
一之瀬 潤は蓮を支えながらスーツのポケットからスマホを出し、防衛軍に電話する。
「もしもし? 今化身を使った強盗が起こっててさー。あ、もうそっちに通報来てる? 今こっちに向かってんの? おっけー、りょうかーい」
「防衛軍の人はなんて言ってたんですか?」
「もう通報されてるからこっち向かってる。大体後数分ぐらいで着くってさ」
一之瀬 潤がそう答えると、疲弊し、疲れている蓮の顔は一気に焦りの顔になる。
「え、それって防衛軍の人達がここに来るってことですか?」
「そうだね」
「第一部隊の人ですか?」
「そりゃそうでしょ。ここ東京だよ? 関東地方は第一部隊の管轄。ここに来るのは第一部隊の隊員だろうね」
蓮は『防衛軍』『第一部隊』という単語に何か焦っている。
「……まあ、防衛軍でもない僕達がいても何も出来ないしね。それより蓮くんは疲れてるし、僕が家まで送るよ」
一之瀬 潤は少し考えた後、蓮の焦りのことについては何も聞かず、蓮の体を気遣ってくれた。
「あ、ありがとうございます。でもいいんですか? 強盗犯をここに置いていって」
「いいのいいの。見てくれてるから」
「見てくれてる……?」
「そうそう。じゃ、行こうか。紫苑は戻っていいよ」
そう紫苑に一之瀬 潤は呼び掛ける。紫苑はそれに返事をし、最初に見た小さいサイズに戻り、肩ではなく、一之瀬 潤の頭の上に戻っていた。