第一章2 「お昼の出会い」
その夜、テレビでやっていたニュースで昔を思い出し、気持ちが沈むもカレーライスを作り、食べて一日を過ごした。
その翌日、土曜日。少し遅く起きた蓮は、まだ寝ていたい気持ちと一緒にそのまま一階に行った。
朝ごはんは作るのが面倒くさいから昨日のカレーライスを食べることにした。
鍋を出し確認、中身は一食分にも満たない量だった。この家には蓮一人しか住んでいないため、大体ご飯はそこまで多く作らない。一人前か、弁当に入れるために少し多めに作る、それくらいだ。
リビングにある時計を見ると、今は10時過ぎだった。
「流石に寝すぎたかな」
少し遅い朝ごはんを食べ、一息つく。ソファーに座りテレビやスマホを見ていれば、案外時間はあっという間に過ぎていった。
「……あ、もう昼になる」
スマホの時間は12時を回ろうとしていた。
昨日は買い物に行かず、冷蔵庫にあった食材でカレーライス、今日の朝ごはんも昨日の残ったカレーライスを食べたため、今冷蔵庫には食材が何もなかった。
「買い物に行かないと」
すぐに準備をし、家を出る。
昼ごはんの食材を買いにきただけなため、財布の中身はあまり高い金額は入っていない。
住宅街を抜け、街へ出る。
(昼ごはん何食べようかな。なるべく簡単に作れるやつがいいよな~。だったら……チャーハンとかいいかもな)
そんなことを考えながら歩いていると、
「そこの少年くん」
すぐ後ろから声がした。あまり高くない低い声だった。
「はい? 何ですか?」
呼ばれたので、反射的に振り返る。
そこにはスーツを着た、紫髪の男性がいた。
「こんにちは。暇なら僕とお茶しない? 少し歩いた所に良いカフェがあるんだよね~。そこのご飯美味しくて。君と話がしたいから、一緒にどう?」
「え」
(えーーっ!? これってナンパってやつ? いやそうだよね? ナンパが言うセリフゴリゴリに使ってるし! ていうか俺!? 俺男ですけど!? もしかしてボーイッシュ女子とかと勘違いされた? 今の時代は男が男にナンパするものなの!?)
蓮はナンパされたことがない。そもそもされるという可能性を考えたことがない。しかもナンパしている人は男だった。女性が男性にナンパする逆ナンという言葉があるが、男が男にナンパするという行動の言葉があるのだろうか。
しかもナンパしてきた男性、スーツ来ていかにも偉い人という雰囲気だ。そして特に顔が良い。そのせいか蓮にはすごいチャラく見えるのだ。
「いや俺、男……なんですけど……」
動揺しながら相手に確かめるように聞いた。だが相手は、
「うん。分かってるよ?」
(分かってるのかよ!)
「さっき言ったでしょ? 話があるって。その為に君に話しかけた。ただ、このまま立ち話もなんだからっていう意味でお茶しない? ってこと」
「はぁ……そうなんですか……?」
(それにしては言葉が足りなかった気が……)
「勿論、用事があるなら無理には連れていかないよ」
「うーん……」
・・・・・・
場所は変わり、蓮とナンパしてきた男性は今――カフェにいた。
何故カフェにいるのかと言うと、とりあえず承諾をしたら話に流されて一緒にカフェにいく流れになってしまった。
「もう昼過ぎてるし、昼ごはんここで食べよっかな~。君も食べたいものあったら遠慮なく頼んでいいよ」
カフェのメニューを見ながらナンパしてきた男性は言った。
正直、悪意がなさそうだったから承諾したものの、蓮の内心はすごくビビっている。いつ悪徳セールスとか、勧誘とか、金額請求とかされるか分からないからだ。
考えてみれば、最初にナンパしてくるように蓮に話しかけたのがいけないのだと思う。そもそもの話、何故蓮に話があるのかなど、詳細を何一つ話してもらっていないため警戒せざるを得ないのだ。
「あの、これ最後に俺がここの代金全部払うとかないですよね?」
「いやいや、僕が奢るつもりで言ったよ? 流石に僕が君に用事があってカフェに連れてきたのに、代金全部払わせるような鬼畜はしないって」
本心はそうなのかもしれないが、さっきも言ったがナンパしてきた男性は蓮に何も何故話があるのかを言っていない。そしてまだナンパしてきた男性の名前すら聞いていない。
「まあ君に全部払わせることはしないから、とりあえず頼んで。そこから話をしよう」
と言うため、蓮はオムライスを、ナンパしてきた男性はハンバーグを頼んだ。
それぞれ頼み終え、ナンパしてきた男性は両手を組み、そこに顎を乗せる。
さっきのチャラそうな雰囲気とは異なり、真剣な表情と態度を感じさせた。
「じゃあ話をしようか。まずは自己紹介、僕は一之瀬 潤」
「あ、俺の名前は」
「赤崎 蓮くんだよね? ちゃんと知ってるよ」
蓮と一之瀬 潤は初対面のはずだった。蓮は記憶を辿り、一之瀬 潤の情報を探した。だけど十七年間一度も一之瀬 潤という名前を聞いたことがないし、会ったことも、関わったこともなかった。
「なんで俺の名前を……」
会ったこともない人に名前を言い当てられ、一気に警戒心が上がる蓮。そんな雰囲気はお構い無しに一之瀬 潤は話を進めた。
「君自身が有名じゃなくても、君の名字はすごく有名だからね」
そう言われて、蓮には心当たりがあった。
「お父さん……」
「蓮くんを知ったのは京くん経由だけど、今君に話があるのは僕の個人的な興味だから、そこに京くんは関係ないよ」
(この人、お父さんを名前でくん呼び!? お父さんは日本防衛軍第一部隊隊長。いわば防衛軍のトップだぞ!?)
「話が脱線しちゃったね。――単刀直入に言うと、僕は君を勧誘しに来たんだ」
「は?」
一之瀬 潤の一言で、今までの気持ち全てが一旦抜けた。