第一章1 「化身に憧れを持つ青年」
この世界には『化身』というものが存在する。
それは昔、ある炭鉱で作業していた男が、鉄などとは違う金属を掘り出したことから始まった。
その男の発見から、世界中の研究者達はその金属の解明を目指した。月日は流れ、ある研究員の女はその金属を片手にこう思った。『もう一人こっちに派遣してくれないかな』そんな些細な想いから、世界で初めて化身が誕生した。
月日が立ち、その金属は『スピリツメタル』と名付けられ、その金属の作用が『触れることで己の精神エネルギーを具現化し、現実世界に顕現させる』ということが分かった。
『化身』は簡単に言えば精神エネルギー、心が形になったもの。精神というのは人それぞれ違う。皆違うから、一人一人化身の形は違う。ある人は同じ人間のような姿だったり、ある人は動物の姿だったりと、一人一人違うのだ。
そして少しづつ、スピリツメタルは各地の国で発見されるようになり、今では軍事技術として取り入れるようになり、そして良くも悪くも、化身を使った悪事、悪組織の増加、そしてスピリツメタルの違法取引など、軍事施設が強化された代わりにそういう悪事も増えていった。
そしてこの話は、化身に憧れを抱いている、ある青年の話――。
・・・・・
(今日は三人一組でやる授業があるんだよなぁ……)
「はぁ」と心の中の言葉なのにも関わらず、ため息をつく。
赤髪の少年、赤崎 蓮は憂鬱だった。
なぜ憂鬱なのかというと、今日は授業で三人一組のグループでやらないといけないからだった。
蓮にとって○人一組という授業のときはいつも憂鬱だった。たった一人の親友は今年高校二年生になり、クラス替えで見事に別のクラスになり、話す相手がいなくなるという事実。
(別に一人でいるのはいいんだよ? でもさ、グループ決めは大体仲のいい人同士で組んでさ、俺は誰もクラスに友達いないから空いてるグループに入れてもらうしかないじゃん? その時のグループの人達の顔ときたら……「あ、どうぞ……」みたいな! その空気だよ、その空気! 俺が入ることによってちょっと空気が変わる瞬間! それが一番嫌なんだよなぁ……。俺が悪いみたいなさ、勝手に罪悪感を感じるというね……)
これはクラスに友達いない人なら共感してくれるんじゃないかと勝手に思ってる蓮だった。
クラス替えをする前まではたった一人だけど親友がいたが、さっきも言った通り、クラス替えで別々になってしまった。
それでも昼ご飯を食べるときや帰るときは一緒なのだが、今現在その親友は一ヶ月の停学中のため、ここのところ蓮はずっと一人だった。
「まあ、頑張るしかないんだけどさ……」
・・・・・・
そして時間は進み、学校は終わり放課後へ。
三人一組の授業を乗りきった蓮は安心感とやっと終わったという脱力感、両方に支配されていた。
「なんとか乗りきったけど、やっぱり空気がなぁ……」
トボトボと歩き、家につく。そのまま自分の部屋に行き、ベッドにダイブ。
「今日も疲れたー」
そう言いながら、ふと時計を見る。もう洗濯や夜ご飯の準備、色々家事をしないとなどを考え、重い体をなんとか起き上げ、ベッドから出る。制服のままベッドに倒れた込んだため、一旦制服を脱ぎ、部屋着に着替える。
急いで制服や諸々を洗濯機に入れ、洗濯機を回す。明日は休日だから、急いで干して楽にしたいから早めに回す。
「よし、洗濯は完了。後は……」
次に移動したのは冷蔵庫。夜ご飯を何にするか決めていないため、とりあえず冷蔵庫の中を見て決めることにする。
「肉、玉ねぎ、人参、じゃがいも……」
蓮は上記の食べ物を見つけ、あと一つ、確かめなければならないことがあった。蓮は急いで棚を確認する。
「おっ、あった。――カレールー! 今日はカレーライスかな」
(ご飯は朝ごはんと弁当で使ってるから炊かないと……あ、制服を持ってくるとき弁当も持ってくればよかった。持ってきてたら今洗えたのに)
後で持ってきて洗えばいいかと考え、まずはご飯を炊く。炊いたらすぐに自分の部屋に戻り、弁当を持ってきて洗う。そして朝ごはんの分の食器を水にさらしておいたからそれもそのまま洗う。
一旦仕事が終わったため、ソファーに座り、テレビをつける。すると映ったのは、日本に位置する、主に化身を使った犯罪を取り締まる大規模組織『日本防衛軍』のものだった。
日本防衛軍や化身がテレビに映ることはなんら不思議ではなかった。今や日本や世界では化身は人々に認知されている。たまに防衛軍の人達の化身を見かけることが時々あったり、化身犯罪者が防衛軍の活躍により捕まったなど、それがテレビでニュースになるなんて日常茶飯事だった。
映ったのはいつもと変わらないニュース。化身犯罪者が捕まった等のニュースだ。そしてそこにある人物が映る。
「…………」
映された人物を見て、蓮は黙り込む。
その人物とは、日本防衛軍第一部隊隊長、赤崎 京だった。
「お父さん……」
そう呟いた蓮の表情はあまりいい表情ではなく、悲しみ、そんな感情が表れた表情だった。
――うるせぇなッ! こっちの都合を知りもしない癖に……何も分からない子供がでしゃばるなッ! お前は俺の言うことを聞いていればいいんだッ!
この言葉は蓮が十歳のとき、電話越しに実際に言われたことだった。
そこからだった。蓮が父親に対して、『恐怖』、『悲しみ』そんな気持ちが陥ったのは。
それから、日本防衛軍の仕事で忙しい父親が帰ってきても話しかけることはなく、そっちも話しかけてくれることはなかった。せっかく時々しか帰ってこない父親が帰ってきても、終始無言。そんな状態がいつも通りだった。
『歩み寄れない存在』。それが蓮が父親に対する気持ちだった。