表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
1章.人の国
9/146

9話「再会」

クリフは、シルヴィアが居るであろう離れの塔へ確実に近付いていた。

警備が妙に薄く、上階に集中しているように思えた。恐らくもう既に、ヴィリングからの来訪者がこの城に訪れている。

その状況は、あり得ないほどの幸運であると同時に、不運でもあった。


__もし万が一、シルヴィアが会談場所に着いてたら、死ぬな。


会談場所には、ニールとレイが居ることは確実で、下手をすればイネスも居る可能性があった。


シャンデリアの上を渡り、確実に彼女の居るであろう場所へと向かい、部屋の前に辿り着いた。

そしてシャンデリアから降り、ドアノブに手を掛けた瞬間だった。


「よく来たな」


マイルズが扉を蹴破って突然現れ、扉ごと蹴り飛ばされる。

戦友との嬉しくない再会に顔を歪め、即座に壁へ受け身を取ろうとするも、激突したのは壁ではなく、窓ガラスだった。

ガラスが砕ける音と共に、外に放り出される。


「このっ!クソぁっ!!」


思わず叫び、落ちる場所を見下ろす。

そこは城の中部にある庭園。その中心にある、大理石で作られた円形の舞台だった。

その四隅には四つの柱が立っており、やや奇妙な見た目をしていた。


落下の最中、舞台に勢いよく着地する。

骨がひび割れそうな衝撃に、歯を食いしばり耐えた。

追って、マイルズも目の前で軽やかに着地した。


「マイルズ!!あんたよくも……!!」


目的地の手前で邪魔をされ、頭に血が昇る。


「かつて神がいた頃、戦士たちはこの闘技場で互いを競い合ったそうだ」


マイルズは興味が無い様子で言葉を無視し、円舞台の床に触れる。


「あの子なら陛下の元に向かった。お前はここで死ね、英雄たちが血を流した場所で果てるんだ、望外だろう」


マイルズは独特な見た目をした、孔の空いた剣を引き抜く。


「俺にノスタルジックな趣味は無い……クソ食らえだ」


こちらも剣を抜き、構える。


「魔法も無いお前が勝てると思うな」


「やれば分かるだろうが」


「はっ、そうだな!」


マイルズの剣に空いた孔から炎がゆっくりと噴き出す。


〈__火照薪(ファビーラ))〉


剣から噴き出る炎は激しさを増し、建物程の高さを持つ火柱へと形を変えて勢いを増す。

マイルズは炎で巨大な大剣を作り上げ、それを振り下ろした。


横に飛び退いて、その一撃を避ける。


「クリフ、忘れてないだろうな!!」


大剣は接地と同時に形を崩し、闘技場の床を全て炎で飲み込んだ。


迫り来る炎を前に、柱を伝って退避する。

火は、マイルズの周囲を避ける形で燃え広がっていた。

懐からボルトガンを引き抜き、狙いを定め、引き金を引く。直後、持ち主の魔力を吸い、銃身に埋め込まれた緑色の石が輝く。


「誰が忘れるかよ!」


巻き締められた歯車が解き放たれ、凄まじい勢いで一斉に矢が放たれた。

しかし、燃え広がっていた炎が隆起して壁となり、矢を吹き飛ばした。


役に立たないと判断し、ボルトガンを投げ捨て、柱から柱へと飛び移り、炎の壁を回り込む形で、マイルズ目掛けて飛び降りる。


__魔法には集中力が要る、ニールやレイならともかく、あんたはまだ頭が回らない筈だ。


想定通り、近接戦闘に移行する為にマイルズは魔法を解いた。

先ほどまで燃え盛っていた炎が霧散し、彼は煩わしそうに歯を鳴らしていた。


着地と同時に素早く踏み出し、突きを繰り出した。それをマイルズが防いだことによって剣戟が繰り返される。

その内容はこちらが優勢であり、技術、身体能力のどれを取ってもマイルズは劣っていた。


__このまま戦えば順当に勝てる、だが。


マイルズは読み合う気など無いだろう。


「終わりだ」


マイルズは鋭い突きを剣でいなし、左手から凄まじい量の爆炎を放った。


「だと思ったよ!!」


その場で勢い良くしゃがみ込み、立ち上がる時の勢いに任せて剣を振り上げる。


__取った!


剣の軌道は、確実に彼の首へと向かっていた。

しかし次の瞬間、互いの足元から巨大な火柱が巻き上がった。


「__っ!?」


咄嗟に炎から飛び出そうとするも、それより先に両足が焼け焦げて動かなくなった。


その勢いは止まることはなく、煙や火の粉すらも起こさない程強烈なものだった。

眼球や皮膚を溶かし、身体から突起が消え去った時、完全に動けなくなり、膝から崩れ落ちてしまった。

骸骨のような姿へと変わり果て、身体のほとんどが溶けた。

電撃は気合いで耐えたが、物理的な欠損には、流石になす術が無かった。


その直後に炎は消え、業火から解放される。


「剣から炎を出したのも、剣戟に付き合ったのもブラフだ。この二年でどこからでも出せるよう練習した。″弱すぎる″と、隊長から苦言を貰ってな」


辛うじて焼け残った片方の目で見つめる。

マイルズは煤一つ被る事なく、無傷で炎から出ていた。


苦しげな呼吸を途切れ途切れに漏らし、彼の言葉に耳を傾ける。マイルズは目の前でしゃがみ、冷たく見下ろす。


「そこから死ぬまで五分だ。せいぜい、苦しんで死ね」


マイルズの表情は怒りが篭っていたが、何処か悲しげでもあった。


「あの子には、来なかったと伝えるさ」


寂しげな物言いで彼は立ち去る。

それを最後に、火傷によって視界が潰れた。

爛れた皮膚が外気に触れ、激痛が走る。息も辛うじて出来る程度で、ただ生きるだけで想像を絶する苦痛を味わった。


しかしその感覚が突然、プツリと途切れた。

恐らく、死んだのだろう。

楽になった呼吸が心地よかった。


__奇妙だな、死って……


率直な感想を述べながら、志半ばで倒れた事を悔しく思いつつも、諦めはついていた。


__シルヴィアはどの道救われるんだ。俺みたいなストーカーが消えて……好都合だろうさ。


諦めの混じった微笑を浮かべる。


「クリフ、起きて」


女性の声が聞こえ、思わず体を起こし、目を開く。

すると、目の前に死んだ筈の姉が居た。

どうやら、姉に膝枕をされたまま眠っていたようだ。


「おっ、姉ちゃんだ。なぁ俺、死ねたのか?」


先の戦闘で負った傷は、全て治っていた。

そして周囲を見渡すと、純白の大理石で構成された神殿に居た。


「まだ生きてるよ。死に掛けてるだけ」


その返答に、思わずため息を吐く。


「じゃあこれは夢か」


姉はその返答を聞き、口元を押さえて苦笑した。


「そうかも、じゃあ、お姉ちゃんとお話ししよ?」


その言葉に、心が少し躍った。


「ああ、良いよ」


「クリフは、死んじゃいたいの?」


「……ああ、みんな死んでばっかだからさ。それでみんなの元に行けるなら、最高じゃないか」


それは姉を責める言葉だ。


「ごめんね」


彼女は優しく頬に触れ、一粒の涙を落とした。

雫が頬に落ちて来る。

姉の泣く姿を見て、不思議と涙が出た。


「でも、これからは姉ちゃんと一緒だろ?良いんだ、やり直して__」


彼女に口元を押さえられ、言葉を咎められる。


「クリフは、あたしの分も生きてよ」


先程のお返しと言わんばかりに、きつい言葉を返された。


「きっとこれから、辛いことも沢山あるだろうけど。でもっ、それでも、最後には楽しかったって、あたしに教えに来てよ」


「……出来るかな」


身体を起こし、姉を見つめる。


「クリフなら出来るよ」


優しく、抱きしめられた。

温もり。長らく忘れていたそれに触れ、涙がとめどなく溢れ出した。


「負けっぱなしの人生なんて、つまらないじゃない」


姉に突き飛ばされ、突然強烈な光に包まれて後方に引っ張られた。

地面から足が離れ、踏ん張る事すら出来ず、距離が離れた。


「姉ちゃんっ!!」


姉に手を伸ばす。


「行ってらっしゃい!」


シェリーは満面の笑みを浮かべ、伸ばした手にハイタッチをした。



闘技場を中心に、凄まじい量の魔力が立ち昇る。マイルズは振り返り、確かな緊張感を覚えながら、魔力の発生源へと駆け出した。


「お前っ……なんで、なんだそれは!?」


魔力の発生源には、先程殺した筈のクリフが立っていた。

焼け落ちた筈の身体に光子が纏わりつき、晴れると同時に傷が癒えており、凄まじい速度で身体の再生を行っていた。

次に起こったクリフの変化にマイルズは気付く。紫の瞳が青色へと変わり、真っ黒な髪の色が徐々に抜け始め、眩い金色に変わって行った。髪を染めていた黒は、胴体へと流れて行き、全身に刺青のような模様を描く。


「姉ちゃん、ありがとう。俺、生きるよ」


クリフは変容した自身の身体を眺めながら、少し考えていた。


「……っ!化け物が!!」


マイルズは再び魔法を発動し、火炎をクリフに噴射する。クリフは一歩足を踏み出すと、その場から消えた。

目標を失った炎は闘技場の床を炙り、役目を果たせないまま霧散した。


「何処に!」


マイルズは周囲を見渡した瞬間、側面から現れたクリフに首を掴まれた。

彼は目を大きく見開き、笑う。


「身体が、ビックリする程軽いんだ。クソ重い鎧脱いだ後みたいによ」


「ふざ……けるな!」


マイルズは絞首から脱すべく、再び手から炎を出す。


「返礼だ」


クリフはそう囁くと首から手を離し、右拳を固めて振りかぶる。空気が弾ける音が鳴り、拳の風圧で炎が消し飛ぶ。

規格外の速度で放たれた拳は、マイルズの頬を打つ。マイルズは宙を舞い、激突した柱さえへし折り、城の壁面に打ち付けられる。


「魔力が練れる、纏えるっ!!今まで出来なかった事が!出来てる!!」


クリフは、拳を掲げ叫んだ。


「見ててくれよ姉ちゃん!!俺やってみせるからさぁっ!!!」


全身から発せられた黄金色に輝く魔力の柱が、天を貫いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 中々話も面白い 文章も読みやすいし要点抑えてて分かりやすい これで初めてなのは才能あるよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ