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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
3章.魔道の国
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75話「大嫌い」

転移門を抜け、戦地と最も近い城砦に赴いていた。


「イネス様!お待ちしていました!!」


今のアウレアには無い、金の装飾の入った豪奢な鎧を着込んだハイヒューマンの将官が、私を出迎えてくれた。


「戦況は?」


「セジェス、ハースより出現した亜人の混成軍によって、復興中だった四つの都市が壊滅しました」


その報告に、大きく息を吐く。

すくなくとも、魔神の襲撃から立ち直ろうとした人々が受けるべき仕打ちではなかった。


「都市の生存者は?」


きっと、恐ろしかった事だろう。悔しかっただろう。痛かった筈だ。


「ありません、皆……オーガ共に食われたかと」


彼の返答に、心を固めた。

これから人を殺すのだ。マトモな神経で剣を握り、彼等を倒しに向かえばきっと、心が壊れてしまう。

奴らは人ではない、魔物だ。


「ありがとう。私は、威力偵察に向かって来る」


そう言って私は砦の窓を開き、そこから飛び降りた。


「イネス様っ!!」


私を呼び止める将校を後に、フォールティアを起動し、落下する私を転移させた。


場所は、奪取された最寄りの砦。

転移と同時に、城砦の全てを認識出来た。


肉として加工された人間たち、破壊された城砦の跡から組まれたオーガの陣地。

迷路のように入り組んだその地形を、目を使う事なく完璧に把握し、城砦内の全ての兵士を認識した。


人間の生存者は無し。城砦内に327、外に4741。巨人が2人。

全てを殺すのに4秒で終わる見積もりだった。


「あなた達と違って、痛くしないから」


食肉へと加工された人間を思うと、思わず顔が歪んだ。


転移した私をオーガが認識した瞬間、彼等の首が一斉に胴から滑り落ちた。

次の瞬間には、砦内全ての窓に鮮血が飛び散った。

誰かが瞬きをした時、砦の外に張られた野営地が光に包まれて消えた。

砦の外に待機していた二人の巨人が異常に気付いた時、自身の心臓が抉り抜かれていた事を認識した。


全ての作業を一瞬で終えた私は、砦の頂上で崩れ落ちる巨人を眺めていた。


「あと三つ……」


そう言って次の転移門を開こうとしたその時、私の背後から気配を感じた。

フォールティアのお陰で、その人物をすぐに認識出来た。


「ナトっ!」


振り向くと、やはりナトが居た。

長い間、会いたくて堪らなかったその人。ずっと、謝りたかった人。

言葉を発そうと一歩踏み出したその瞬間、彼女の顔を見て声が出なくなった。


彼女の目には、黒く沈んだ憎しみが宿っていた。僅かに寄った眉からは、冷たい失望を感じられた。

その光景に息が詰まり、心が凍り付くようだった。


「大っ嫌い……」


彼女がそう呟くと、指先から木の枝が飛び出し、槍のように鋭いそれが私の心臓を貫いた。

彼女の怒りを感じ取った私は、何も行動を起こせなかった。


頭に血が回らなくなり、思考が止まり始める。

フォールティアが何かを伝えようとしていたが、頭に入って来なかった。

ただ、取り返しの付かない事をしてしまったのだと、改めて思い知らされた。


意識が暗く沈んでいく中、死の恐怖に襲われ、必死にもがいた。

まるで重りを付けて水底に沈められるような感覚に苦しんでいた時、突然目が覚めた。


「……嫌っ!ごめんなさいっ……ごめんなさいっ!!!」


焦燥感に駆られて発した言葉は、平原に響き渡った。


「っ……どうした!?」


視界の外からニールの声が聞こえ、横たわる私の元に駆け付けてくれた。

背中に手を回して上体を起こし、心配そうに私の顔を覗いていた。

呼吸を整え、少し無理をして笑顔を作る。


「……少し、悪い夢を見てたの」


あの後、ナトに蘇生されて皇城に回収された私は、鬱病になった。

超域魔法が扱えなくなり、剣を握る事すらもままならない私は戦死した事となり、戦場の惨状を聞かされては、二度目の死に怯える日々を過ごしていた。


信仰に救いを求め、気が付けば法の守り手になっていた。

例え肉体が若くても、心が老いていた。


「そうか……あの後、フォールティアを借りてな、転移門でセジェスの本国に向かったんだ。少し荒っぽくなったが、無事に目的地に到着した訳だ」


周囲を見渡すと、天を貫く巨大な構造物の下に、フルゴルビスに並ぶ程に栄えた城塞都市が建っていた。


「……ありがとうニール君。助かったよ」


昔の自分ならと考えてしまう。

あの状況を、私一人で打破出来た。

そもそも、彼を悲惨な戦地に赴かせずに済んだ。


彼女は、ナトは今どうしているのだろう?



地下の書庫で、シルヴィアとナトがテーブル越しに向かい合っていた。


「先生っ!魔神って何なんですか!」


ナトは意表を突かれた様子で、二度瞬きをした。


「えっ?魔神全体の事で良いのかな」


「はいっ!」


彼女は顎に手を当てながら思案すると、書庫の奥から一枚の黒板が勢い良く射出され、彼女の背後で急停止して浮かんだ。


「えーっと、魔神と大神の違いって実は無いんだ」


彼女はチョークを浮遊させ、ピクトグラムのように簡易的な絵を描き始めた。


「えっ!?そうなの?」


「うん。ここより隣の世界に住んでる神の事で、広義的に言えば、大神達は私の叔父叔母と言って差し支えないかな」


彼女は惑星に似た図形を描いた。


「それで、この世界の主神だったケテウスが、よっぽど暇だったのか、二つの世界を繋げようとしたの」


右の惑星から飛び出した人型の図形が、隣の惑星がくっ付け始めた。


「けどそこは、魔神達の主神がそれを止めたんだ」


隣の惑星から飛び出した人型が、右の人型を突き飛ばした。


「これで終わってたら、万事平和だったんだけど……止めるのがギリギリだったから、お互いの生き物が入れ替わっちゃったの」


互いの惑星の表面が爆発し、砂のようなものが飛び交い、入れ替わっていた。


「もしかして、向こうに住んでた生き物が魔物なの?」


ナトは笑い、人差し指を立てた。


「正解っ。だから、悪魔や吸血鬼といった頭の良い魔物達は元の世界に帰りたがってるの」


ナトはテーブルを指先でつつく。


「それで、その時に二人の神が入れ替わりになったんだ。一人はヴァストゥリルお義父さまの父、インディルク。そしてもう一人は私の父親、バルツァーブだよ」


黒板に無数の人型が描かれ、VSの文字と共に、人型が争っている様子が描かれた。


「世界が近くなった事で、魔神が気軽にこの世界に来れるようになっちゃってね。それはもう大きな戦争が起きたんだ」


争っている人型の間に、数頭の竜が描かれた。


「このまま争ってたら、どっちかの神が絶滅してしまうから、仲裁役として竜神が誕生したの」


シルヴィアは首を傾げた。


「誰が竜神を作ったの?」


その質問に、ナトは目を逸らした。


「……『お母さま』って人が作ったらしいよ。お義父様でも一度会っただけみたい。ただ、全ての神の母親なんだとか」


「優しい人なのかな?」


「どうなんだろう?変な人とは言ってたけど」


シルヴィアは思案した後、クスリと笑った。


「あっ、変なこと考えたよね?」


「だって、変な人って言うから。ふふ」


笑うシルヴィアにナトは微笑むと、手を叩いた。

書庫内の本棚から幾つもの本が飛び出し、机の上に積み上がり始める。


「じゃ、魔法のお勉強をしようか」


彼女は得意げに言い、シルヴィアもまたそれに目を輝かせた。

語る予定のない設定。

オーガは人間を食べますが、北方のオーガ達の文化であり、クリフの村を焼いた南方(中国モチーフ)のオーガに食人文化はありません。

また彼らは、クールー病に感染はしますが、歳を重ねて成長する度に生理機能が進化する為、潜伏期間を終えて軽度の症状を引き起こした後、回復する事が殆どです。

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