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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
2章.鋼の国
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58話「黄金の太陽」

ジレーザの上空では、金と白の光が何度も激突し、瞬いていた。


「良い加減、消えてくれよッ!!」


「消えんのはてめぇだ!!」


戦闘の途中から、蓋が緩むような感覚を覚える。

まるで、空腹が満たされていく時の多幸感が、際限なくやって来るようだった。


魂から供給される魔力が明らかに増え、それらを圧縮して練り上げているにも関わらず、周囲の景色を埋め尽くさんばかりの勢いで溢れ出した。


集中を高め、それら全ての魔力を一瞬で束ねて右腕に集めた。

それに連ね、イメージを重ねた。

筋繊維の膨らみ、血管で急速に流れる血液。

肉に覆われた骨が躍動し、ソルクスに向けて繰り出される。


そんなイメージを描きながら、彼を全力で殴った。


「ぐぅっ!??」


拳で防御した彼の腕が歪んで変形し、千切れ飛んだ。

巨大な腕が真下の底なし穴へと吸い込まれて行った。


「くたばれ!!」


空いた左腕で彼の頬を思い切り殴った。

遅れて魔力が弾け、凄まじい速度でソルクスが吹き飛び、大穴の外壁へと激突した。


土煙を立て、地面を揺らしながら、外壁の一部で地滑りが起こる。


「どれだけ再生出来るか試してやる」


オムニアントを弓へと変化させる。

そして、掌から細長く紅い宝石のような物体を精製し、それを矢として番えた。

それを、無数の瓦礫に巻き込まれながら落下するソルクスに向けて構えた。


空に浮かぶ金色の太陽が輝きを増し、そこから琥珀色に輝く雫が零れ落ちる。

雫は、矢尻に滴り落ち、矢の輝きをより一層強めた。


「とっておきだ」


弦から指を離すと、放たれた矢が光と見紛う速度で突き進み、ソルクスの元へ向かう。


〈__緋雫(ボエブス)


しかし、ソルクスは再び自身を加速させてその場から離脱し、目の前に瞬間移動してみせた。


既に両腕の再生を終えており、その体長を優に越える大きさの両拳を振り出した。


〈__塑性弾核(テュケス)


次の瞬間、放った矢が逆方向へと向きを変え、ソルクスの胸を貫いた。


「隊長の真似事だ。アレよりインチキだけどな」


彼の胸を貫いた矢は、ソルクスの胸の奥に吸い込まれた。

彼の胸を中心に金色の亀裂が発生し、それが全身へと一気に広がった。


「吹き飛ばしても意味が無いんでな、味わってくれ」


次の瞬間、ソルクスの全身が激しく燃え上がる。

しかし、それに抗する形でソルクスの胸部が白く瞬いた。


〈__(アイオーン)


「知ってたさ!!」


オムニアントを剣へと戻し、彼の心臓部を突いた。


「なっ……どうして」


心臓部を突かれた彼の権能は停止し、その光を失う。

ソルクスは目に見えて動揺しているようだった。


「コイツが教えてくれたんだ。半世紀もぶっ通しで握ってたんだ、言葉を話さなくても分かるさ」


オムニアントを握る力を強める。


「思うに、てめえの権能はまだ不完全だ。見積もって、超域魔法の規模が関の山。まだ、ギリギリだが神の力には及んでいない」


突き刺した剣を勢い良く切り下ろし、心臓部から股にかけて切り裂いた。


それと同時にソルクスの胸が横に裂け、紙芝居のコマを差し替えたかのように輪切りにした。


「容赦はしない」


クリフの輪郭が歪み、剣先に無数の残像を描きながらソルクスを刻み始めた。


鋭い切先が肉体を数百にも切り分けた瞬間、クリフは左腕に魔力を纏わせ、ソルクスの胸部があった位置に拳を叩き込んだ。


「最大火力だ!!」


彼の内側に刻まれていた〈緋雫〉の魔法が、打ち込まれた魔力によって活性化し、瞬いた。


次の瞬間、ソルクスを中心に大爆発が巻き起こり、金色の火柱が大穴の全てを覆い尽くした。


二人は火柱の中に飲まれていた。

そして、その内側から飛び出したのはクリフではなく、巨大な白竜だった。

光輪にも似た角、体躯より遥かに巨大な翼を六つ備えたその竜は、ソルクスの特徴を明確に引き継いでいた。


白竜はその場から飛翔し、雲を突き抜けた。


遅れて、火柱の中からクリフが飛び出し、白竜を見上げた。


「変身なんてアリかよ」


白竜となったソルクスは咆哮を上げ、彼を見下ろしていた。

六枚の巨大な翼を丸め、繭のように全身を包み込む。

そして、内側から白の光子が漏れ出した時、彼は一斉に翼を広げた。


強烈な風と共に光子が拡散し、雲のようにジレーザ上空を埋め尽くす。


それらが集積し、眩い光を発すると、上空に巨大な槍が複数出現した。

並の建造物を優に超える程の威容を誇るそれらを、一斉にクリフへと落とした。


「ああそうかよ、お前は被害を気にしなくて良いもんな!?」


〈__戦戦火馬(ソール)


クリフは地面に左手を付くと、彼の足元から燃える鬣を持つ金色の馬が出現する。

彼はそれに跨ると、勢い良く手綱を鳴らした。


馬は前脚を上げた後、空気を蹴って空を駆けた。

炎の残影を描きながら、落ちて来る槍に向かって走る。馬が槍の側面を通過し、槍の側面を駆け上がった。


ソルクスは更に槍を召喚し、クリフに向けて落とした。


槍の底部から飛び立ち、次の槍を回避しようと空を駆けた瞬間、槍が一斉に爆裂し、クリフは光に包まれた。

雲が光に飲み込まれ、消失する。

クリフの作り上げた金色の空に台風のような白い欠けが生じた。


ソルクスに油断は無かった。

三対の翼の先端を口部に向け、口元に魔力を集約させる。


それと同時に、光の中から長方形の鉄塊が飛び出した。すぐに鉄塊の表面が溶け、内側からクリフが飛び出す。

そして、溶け出した鉄塊がクリフの手元に集まり、剣の形を取った。


「上等っ!!」


瞬時に状況を把握した彼は、剣に炎を纏わせ、空に掲げた。


〈__昇旭(スキールニル)


空に浮かぶ金色の太陽がクリフの剣に滴り落ち、吸い込まれた。

ジレーザの空に再び夜闇が訪れ、オムニアントが太陽のような輝きを発する。


それと同時に、ソルクスが集積していた魔力の輝きもまたピークを迎え、瞬いた。


ソルクスの口部から極大の熱線が放たれる。

クリフもまた、それに抗する形で剣を振り上げ、剣の内に秘めた熱を火球へと変えて放った。


双方の力が激突し、僅かな間を置いて音と衝撃波が追い付き、周囲に浮かぶ雲を吹き飛ばした。


クリフの熱球がソルクスの熱線を弾きながら突き進む。しかし、それに対してソルクスは更に熱量を高めた。


二人の攻撃が膨張し、限界を迎えて弾けた。

爆発によってジレーザの夜空が朝焼けのように光り、地表を焦がす。

眩い光と爆炎が続き、ソルクスが僅かに飛び退いた時、爆炎の中からクリフが身を焼け焦がしながら飛び出した。


「超域魔法、開坑」


クリフは両拳を激突させた。

次の瞬間、拳がガラスのように砕け散り、そこから眩い光が生じた。


〈__潜光(ファイエントス)


彼の手が再生し、その手には、光り輝くツルハシが握られていた。

ソルクスは咄嗟に巨大な前脚をクリフに向けて振り出した。


彼の体長を軽く超える脚に対し、クリフは爪先にツルハシを叩き付けた。


「俺の勝ちだ、ソルクス」


次の瞬間、二人は光に包まれ、その場から消失した。

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