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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
2章.鋼の国
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57話「黄金の太陽」

最初に仕掛けたのは、ソルクスだった。


〈__白加(アルブス)


彼が魔法を行使すると、その場から消滅し、クリフの背後に周る。

そして彼は、拳を思い切り振り抜いた。


「さて味見だ」


しかしクリフは、振り向いてその動きに追従し、剣で防御してみせた。

一秒にも満たない世界に、クリフが介入した事に、ソルクスは苦い顔をする。


「一体何をした!!!」


ソルクスの言葉を、クリフの一撃が遮る。


袈裟に斬り飛ばされ、上半身と下半身が分かれるも、一瞬でその身体が結合した。


「何も。ただ、お前の動きを予習しただけだ」


続けざまに剣から放たれた炎が、ソルクスの身体にまとわり付く。


__白加アルブス


次の瞬間、纏わり付いた炎が凄まじい勢いで燃焼し、消滅した。

そして、焼け焦げた皮膚が光に包まれ、一瞬で再生する。

ソルクスは、クリフの言葉を吟味していた。

恐らく、自分の妻であったルナブラムが、白加(アルブス)の仕組みを教えたのだろう。

彼女が、自分を見捨てた事が悔しく、また恨めしかった。


「消すのに三日分加速した……厄介だ」


しかし、クリフに心情を悟られないよう、飽くまで冷静な態度を取った。


「ああどうも。きっとオヤジも喜んでるよ」


再び加速を開始した。

そしてもう一つ、結論付いた事があった。


「やっぱり君は……エルか!!」


背後に回ることなく、拳を振り抜く。

クリフに防御され、拳に炎が燃え移るも、構う事なく殴り続けた。


そして、クリフもまた、無数の残像を残しながら、ソルクスの猛攻を弾き続けてみせた。


「うるせぇ!俺はクリフだ!!不器用なジジイに拾われ、人並み以上に幸せになった人間だ!!」


「いい返事だよ!それは!!」


ソルクスに皮肉の意図は無かった。かつて人を信じた男の、表裏のない感想だった。


互いの拳と剣が弾け、僅かに間合いが開く。

その刹那、クリフは床に拳を打ち付けた。

それと同時に、巨大な火柱がソルクスの足元で起こり、彼を包み込む。


「そりゃ良かったよ」


対して、クリフは無愛想に呟き、その場で拳を握り締め、力の限り振りかぶった。

衝撃で踏み締めた地面が砕け飛び、火柱が拳に接触すると、火柱そのものが巨大な爆弾のように弾けた。


二人の周囲は強烈な光に包まれ、周囲のあらゆる物体を溶解させた。

強烈な爆風が起こっているのにも関わらず、その圧倒的な熱量によって、瓦礫が一つとして飛散することは無かった。


そして光が晴れ、溶岩が煮え滾る地上で、クリフが一人立っていた。

しかし、彼の面持ちは険しかった。


「肉体にダメージは無さそうだな……お前」


飛び散った灰を起点に光が集まり、そこからソルクスが出現する。


「鬱陶しくはあるよ。何をするにも身体は必要だからさ」


彼は右手を挙げ、指先をクリフへと向けた。


〈__(アイオーン)


ソルクスを中心に、白の光が巻き上がる。

それは接触したもの全てを次々と消滅させながら、クリフへと突き進む。


 頭の中にキャンパスを描き、それを世界に吐き出すのが魔法だとすれば、ソルクスは世界そのものをキャンパスにしていた。


彼は今、空間そのものへ白い絵の具を撒いたように、周囲を塗り替え、消滅させていた。


「やってやるさ!!」


クリフは両腕から金色の炎を発し、障壁を形作る。

白と激突した炎が次々と消滅し、障壁から漏れ出た光が、クリフの頬を掠める。


彼は雄叫びを上げながら、放出する魔力を強め、火力を更に上げた。

炎が内側から爆裂し、それによって生じた衝撃波と魔力が、白い光を払う。

次の瞬間、クリフは足場がない事に気が付き、咄嗟に魔力を足場にして踏み止まる。


「驚いた……」


光が晴れると、空中に浮かぶソルクスが、目を見開き、感心していた。

クリフが下を見下ろすと、クレイグの作っていたクレーターが全て消滅し、底の見えない大穴へと変わり果てていた。


「さてと……オレは活性の竜神だ。何も消す事が能じゃない」


ソルクスは手を叩き、そこから再び魔力を放出させる。


「消えた物体は全て、オレの中に根付いてる。クリフ、もちろんお前の炎だって」


彼が手のひらに向けて息を吹き掛けると、クリフの扱っていた金色の炎が飛び出した。


「うおっ!??」


クリフは掌から炎を放ち、剣を構える。

互いの炎が激突し、爆炎が辺り一帯を包み込む。


「出し惜しみは無しだ!キミを消して、オレはあの子達の楽園を造る!!」


炎を突き破り、両腕に巨大な竜の腕を纏ったソルクスが飛び出す。

クリフは残像を生じさせながらソルクスに切り掛かり、彼もまた魔法によって加速を始めた。



クリフが、行ってしまった。


私は何をしているのだろう。


ケルスに啖呵を切り、彼の旅に同行した時、私は彼を守るような気持ちで居た。


力では及ばなくとも、私の立場が彼の役に立つと。


けれどそんな事は無かった。


彼の旅に私の存在は薄かった。


私が居なくともこの国に馴染み。


私が居なくともこの国で友を作った。


私は、何度も殺されそうになった。


その度に彼に助けられ、私は無力に転がっていた。


足手まといの私。


弱くて。


臆病で。


わがままで。


あの日私を助けてくれたクリフとは、似ても似付かない、役立たず。


「あたしがなんとかしなきゃ……」


姉達が死んだままの空間で、喉から溢れる血を抑えながら立ち上がる。


「シルヴィア?」


私を抱き締めていたテレシアが顔を上げ、不安げにこちらを見つめた。


「ごめん」


彼女を押し退け、その場から走り去る。

しかし、出口は一向に見当たらなかった。


「……何処行くの?」 


気が付くと、置いて行った筈のテレシアが目の前に現れていた。


「ここの外っ!!クリフのとこに行かなきゃ……!!」


堪らず叫ぶと、テレシアは溜息をしていた。


「シルヴィア」


彼女の姿が消えた瞬間、頭を勢い良く殴られ、周囲の景色が一変した。


そこは、アウレアの皇城。

かつてクリフが戦っていた円舞台だった。


重い頭を押さえながら立ち上がり、周囲を見渡すと、正面にテレシアが立っていた。


「あなたがクリフとの戦いに参加する?冗談言わないで」


再び彼女の姿が消えると、目の前に出現し、腹部を殴られた。

やって来た重い衝撃に膝をつき、思わず倒れそうになる。


「そんなざまで、どうやってあの人に協力するの?本当に、役に立つと思ってるの?」


彼女は冷え切った眼差しで私を見下ろした。

それは、心の奥底で煮えていた劣等感を引き出すのには、充分すぎた。


「……黙っててよ、行かせてよ!」


立ち上がりながら彼女に拳を振るうも、軽く払われ頬に拳を撃ち込まれた。


「痛っ……!」


痛みに思考が鈍った瞬間、左膝に彼女の踵が打ち込まれ、そのまま転倒した。

そして、倒れた私の腹を、思い切り蹴飛ばした。


「う……おぇ」


肺の空気が全て絞り出されたような感覚、焼けるような痛みが頭を埋め、怒りが滑り落ちそうになっていた。


痛い。


苦しい。


助けて……と、頭が考え掛けた瞬間、それを振り払って立ち上がった。

テレシアの拳が迫っていた。

それを額で受け止めた。骨が砕けたような感触を感じ取りながら、彼女を睨みつけた。


「やるじゃん」


拳が砕けたにも関わらず、彼女は不敵に、そしてどこか嬉しそうに笑っていた。


「おいでシルヴィア。お姉ちゃんにぶつけてみなさい!」



ごめんなさい!仕事に追われて更新を忘れていました。

急いで更新したので、ルビをまだしっかりと振れていませんが、ご容赦ください。

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