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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
2章.鋼の国
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54話「父親と」


「オヤジと母さんは……俺がエルの生まれ変わりじゃなかったら、あそこで見殺しにしてたのか?」


義父の横に座り、焚き火に枯れ枝を投げ入れ、一番聞きたい事を尋ねた。

恐らく、期待している言葉は得られないだろう。だがしかし、どうしても知りたかった。


「そうだ……エルウェクト様の生まれ変わりだから、お前を拾った」


義父は真っ直ぐに瞳を向け、言い淀む事なく答えた。


「そうか……」


辛い返事だった。

心が揺さぶられ、言葉を返せなかった。


「ただ……今は息子として、お前を愛してるよ。それは、オネスタだって一緒だ」


彼は自分の肩を叩き、気の良い笑みを浮かべた。


「……ありがとう。父さん」


「俺の台詞だよ。お前が来てくれたから……俺は陰気なジジイを辞められた」


義父に頭を乱暴に撫でられる。彼の生前ならそれに苛立ち、拒絶した事だろう。

しかし、今はどうしてか心地良かった。


「俺はお前の味方だ。この先何が起きても、絶対に。俺はお前の内側から、オネスタは外からお前を護るつもりだ」


思わず、目尻に涙が浮かぶ。

望んだ返事は無かったが、それと同等かそれ以上の言葉を貰えた。

少なくとも両親は、自分を一人の存在として見てくれていた。


「アイツだってお前を見捨てた訳じゃないさ。断った時、泣いてただろ?」


「……うん」


義父は腰を上げ、剣を手に取る。

頭の中の世界の為か、お互いにオムニアントを所持していた。


「……ソルクスは、俺が倒しても良い」


義父は短く呟く。

その言葉は、優しさにも思えた。しかし、それと同時に自分を試しているかのようにも思えた。

返事は既に決まっていた。


「オヤジ、それだけはやめてくれ」


その返答に義父は、乾いた笑いをこぼした。


「どうした?俺の方が確実だぞ。何か手立てはあるのか?」


「いいや、無い。けどな……俺がシルヴィアを助けなきゃ、格好が付かねえよ」


「よく言ったクリフ」


彼が剣を引き抜いた。

その様子はいつになく嬉しそうで、少し焦れているようにも思えた。


「これからお前に魔法と技術を叩き込んでやる、覚悟は良いか?」


返答代わりに腰のオムニアントを引き抜き、義父の顔を見上げた。


「長い付き合いだろ、やるって言ったらやるんだよ、俺は」


「そうだった……お前はそういう馬鹿だったな」


義父は鼻で笑うと、剣を構えた。

次の瞬間、体感した事のないプレッシャーが降り掛かり、剣を握る手が震えた。

その時、義父が比喩でも誇張でも無く、世界最強の剣士だったのだと肌で感じさせられた。

死なない前提があったとしても、その気迫と殺気は並ぶものが無い程恐ろしく、初めて戦場に立った時の感覚を思い出す程だった。


「二人のお陰だろうさ」


額から流れる汗をそのままに、剣を構えた。

そして、剣を振り抜いた瞬間に、自分の首が吹き飛ぶ。

頭の中の世界の為、特に害はない。


視界が宙に舞う中、刹那に感じ取った実力差に思わず眉が落ちた。

これを埋めるのに、一体何年掛かるだろうか。


少しだけ辟易(へきえき)とした後、視界が巻き戻り、首が元の位置へと戻った。



ミラナとアルバは、イネスを置き去りにし、二人で戦闘を始めていた。

市街地を駆け抜けながら、逃げるアルバをミラナが追う形となっていた。


「……鬱陶しいな」


アルバは手のひらをミラナへと向ける。


〈__樹諧(ヴィータ)


彼の手を中心に、樹木が飛び出す。

その量は、彼の体積を明らかに無視しており、さながら土石流の如き勢いと質量で、ミラナへと迫った。


「切り裂く!!」


彼女は腰に提げた鞘に剣を素早く納刀し、再び抜刀した。

抜き出された刀身は熱を帯び、大気に触れた瞬間に、激しく燃え盛っていた。


そして彼女は、その場で剣を空振った。

ルーティンにも似たその不自然な動きを前に、アルバは過剰な程に大きな回避行動を取った。


「いちいち喋らない方が良いんじゃないかな」


樹木の濁流がミラナを避けるように割れ、凄まじい速度で燃え盛り、炭化した。

その余波で、アルバの背後にあった建物に大きな切傷を残した。


アルバが目を凝らすと、微かに空気が揺らいでおり、燃え盛る剣の先に、無色透明な炎が伸びている事が確認出来た。


「バーナーみたいなものかな、古の人が作る武器にしては、非効率だね」


アルバは両脚に魔力を纏わせ、触れた地面に魔力を流し込む。


「力押しで行くよ、何せ神の子だからね」


そして、アルバは両手を彼女に向ける。

ミラナの足元から樹木の槍が生え始め、それと同時に両腕からも樹木の塊を発射した。


彼女は剣を地面に突き刺し、床を加熱して足元から生えた木を焼き払う。


そして、彼女の指先から砂が放出され、それらが一本の剣を形作る。しかし先程の剣とは似ても似付かない程、粗雑で脆そうだった。

ミラナは右腕から青い魔力を放ち、剣に纏わせる。

そして、それを鞘に納刀した。


〈__練鋼(フォルナクス)


そして、再び抜刀すると、砂の刀身は黒々と輝く、斑鉄の剣へと形を変えていた。


「せーのっ!!」


ミラナは横薙ぎに剣を振り、正面から迫る樹木を焼き払った。


アルバはその場から跳躍してそれを回避し、腰部から枯れ枝を生やした。枝が成長して枝分かれし、その密度を増すと、一対の翼が出来上がった。


彼は剣を振り上げて鋭く滑空し、ミラナへその切先を振り下ろした。


互いの剣が激突し、火花を散らす。


「嘘っ、溶けないの!??」


「短慮じゃないかな?」


アルバは剣に魔力を込め、膂力の差で押し切る。

ミラナの剣が手から滑り落ち、二本目の剣が地面に突き刺さる。


アルバの剣が彼女の頭を捉えた瞬間、ミラナの拳が彼の顎と胸を一瞬で打ち抜いた。


「へぇ……?」


不意の一撃に微かによろけたアルバは、ダメージを受けた内臓を一瞬で治癒する。


「それっ、何で出来てるの!!?アダマント……じゃないよね!!ねぇ、もし私が勝ったら……その剣を少し削っても良いかな?」


彼女の態度は、到底戦っている人間には思えないもので、相手を愚弄しているとも取れた。


「……やってみると良い」


アルバの放つ殺気が一段階強まり、彼女を見つめる眼差しが、鋭さを増した。

珍しい事に、彼が怒っていた。


「じゃあ……遠慮なくやるからっ!!」


ミラナは、地面に刺さった二本の剣を掴む。


〈__練鋼(フォルナクス)


次の瞬間、アルバの足元から二本の鉄製の巨大な腕が飛び出し、合掌をする形で彼を押し潰した。


「どう!?これなら……!!」


勝ちを確信したミラナは、アルバの元へと走り始める。


「短慮だと警告したんだけどね」


彼女の胸から、一振りの剣が飛び出した。


「……えっ?」


彼女の胸部から勢い良く剣が抜けると、振り向きながらその場から倒れた。

アルバが彼女の背後に立っていた。


「ただ単に、転移門で逃げたよ。僕の選択肢を都合良く考え過ぎだよ。技術はあるけど、経験が浅いね……古代人にデータでも仕込んで貰ったのかな?」


アルバは剣を振り上げ、倒れたミラナへ振り下ろす。

しかし次の瞬間、地面が崩落し、その内側から二足歩行の竜が出現する。

鉄の身体を持ち、長い腕を持つそれは、先ほど地面から飛び出していた腕の正体だった。


「ミラ……ナぁぁ……っ!!!」


竜は恐ろしげな声で叫ぶと、崩落した瓦礫と共に落下する彼女を受け止め、アルバを殴り飛ばした。

そして、その場から勢い良く跳躍し、周辺にある建物の屋根を踏み壊しながら飛び跳ね、その場から離脱してみせた。


「……逃がすとでも」


地面に着地し、受け身を取ったアルバが、足元に転移門を出現させようとした瞬間、ある気配に気が付いて背後を振り向いた。


「ぶみ」


そこには、一匹の大トカゲが佇んでいた。

彼は、僅かな間すら置かずに片膝を着き、頭を下げて敬意を示した。


「お久しぶりです、ティロソレア様」


大トカゲは、二度瞬きをした。


「久しぶりじゃのう、アルバ」


彼女は女性の声で喋ると、短い前足を片方だけ挙げた。


「あの小娘は妾の友人でな……襲われた手前で悪いが、見逃してやってくれ」


「お望みとあれば」


彼は抑揚の無い声で答える。


「うむ。まあそれだけじゃ、ソルクスの行いに妾は関与せんよ、どのみち、上手く行かんじゃろう」


彼女は短い足でトテトテと歩き、その場を離れ始めた。


アルバが頭を上げ立ち上がった時、ティロソレアが振り向いた。


「おおそうじゃ、客が来ておるぞ」


彼女はからかうような口調でそう言って、その場から立ち去った。

次の瞬間、空が瞬き、流星雨のような光がジレーザの上空を覆い尽くす。


一瞬にしてそれが晴れると、上空を舞っていた飛竜が一斉に空から堕ち始めた。


アルバの目の前で首の無い飛竜が地面に激突し、身体がバラバラに千切れ飛んだ。


そして、それを踏み潰す形で、イネスが目の前に勢い良く着地した。

地面がひび割れ、土煙が漂う中、彼女はフォールティアを片手に、笑っていた。


「私は最強……一番強くて、カッコよくって!!」


イネスは普段ではあり得ない程の高いトーンで、上機嫌に呟いていた。

全身から魔力が噴き出ており、真珠のような輝きを放つ純白の鎧を身に纏っていた。


「あぁっ、アルバ君だ!!最強になった私と、戦おうよ!!」


彼女は深い笑みを浮かべ、アルバに切先を向けた。


「……まずい」


その姿を見たアルバは、柄にもない言葉を吐き、額に汗を滲ませた。

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